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何回か前のこの欄で宮本輝氏の小説『森のなかの海』を採り上げ、文学者のやきものの理解がなかなかのものであることを紹介したが、今回は福岡県中間(なかま)市に住む作家、村田喜代子氏の作品を採り上げる。まず全国紙で連載された後、単行本になり、昨年秋、朝日文庫に入った『人が見たら蛙に化(な)れ』である。
「幻のお宝を追え! 骨董に取り憑(つ)かれた男女の騙(だま)し・駆け引き・泣き笑い」というのが本の帯に刷られたキャッチコピーだが、骨董の世界でもその暗部というか底辺というか、盗掘あり、贋作(がんさく)つくりあり、何でもありの、怪しげな世界にうごめく人間群像を描いた、特異な、でも面白い小説だ。
著者の村田さんがもともとやきもの好きなので当然、やきものの骨董も多く出てくる。窯跡で見つけた初期伊万里の陶片について、
生がけといって、素焼きをせずに釉薬をかけて焼いた土肌はすぐわかる。さびさびした肌にくすんだ藍で秋草が描いてある。
なんて専門家のようだ。
数年前、私が編集に携わっていた雑誌の取材で唐津の隆太窯にご一緒したことがある。当時、川端康成賞を受賞された直後で超多忙であったにも拘わらず、一日たっぷりと唐津で過ごされたのだった。そのとき、「私は磁器についてはいろいろ調べて知っているつもりだけど、陶器は苦手なのよ」と聞いたのだが、なかなか、調べは陶器にも及んでいたようだ。同じ小説中に、
木田が包みを開くと、古い欠け茶碗が出てきた。
建吾は息を呑(の)んだ。(略)
「帆柱窯あたりの斑唐津(まだらからつ)や」
となると古唐津の中でも幻の名窯だ。
とある。きちんと歴史をおさえてある。
とまれ、やきもの好きにはたまらない面白い小説であることは保証する。なお小説の題名の由来については直接、この小説から学んでほしい。
■関連リンク やきものが登場する物語・人が見たら蛙に化(な)れ(村田喜代子)
■関連リンク やきものが登場する物語・「龍秘御天歌」(村田喜代子)
■関連リンク やきものが登場する物語・「百年佳約」(村田喜代子) |
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