Vol.36 |
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百年佳約
(ひゃくねんかやく)
■発行所
講談社
■著者
村田喜代子(むらたきよこ)
■定価
1800円
■ジャンル
歴史小説 |
慶長の役により朝鮮から連行された陶工たちが、九州の皿山に窯をひらいて半世紀。竜窯の母・百婆は死んで神となり、山上の墓から一族を見守る。可愛い子孫の「百年佳約」=結婚成就のため、百婆の活動が始まった。(カバー広告より)
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前にも紹介しました村田喜代子氏の「龍秘御天」の姉妹作。前作が死生観をテーマにしたものでしたが、こちらは結婚観をテーマにした作品。李参平が有田の父なら、百婆仙は有田の母と称されるように有田にとってはなくてはならない人といわれています。この百婆仙をモデルに有田の磁器創世記の渡来人達の生き様を描いています。
肥前皿山に渡来した朝鮮人は同胞の仲間内の婚姻を繰り返していた。百婆の死後、その息子である十蔵は渡来人同士で結婚を繰り返す渡来人社会の行く末を案じ、わが子等の結婚相手を日本人に求めようとします。この一石が投じられるや渡来人の社会に、そして日本人社会に様々な波紋が広がり、それぞれの風俗と結婚観の違いが浮き彫りにされていきます。
ところで、この作品では死んだ百婆は一族を守る神として登場してきます。日本では神は超越的な存在として描かれることが多いのですが、百婆は非常に人間的で、一族を思い、窯の行く末を思って喜怒哀楽を表わしていきます。心配の種があると墓のある山腹から山道を下り、空を飛びながら家々を巡って様子を窺います。
時は16世紀初め、肥前皿山という山々に囲まれた辺境の地で、朝鮮から連れてこられた渡来人達の窯焚きの社会と日本人の窯焚き社会、そして近隣の農家社会という特異な時空の中で両国の結婚観の違いが引き起こす騒動が、現世に断ち切れぬ思いをもったまま神となった百婆の目を通して生き生きと描かれています。
百婆仙は有田の礎を築いた功労者であり、まさにその時代は初期伊万里が生まれたとき。初期伊万里の逸品を思い浮かべながら読み進められることをお薦めします。
■関連リンク 「人が見たら蛙に化れ」(村田喜代子)
■関連リンク 「龍秘御天歌」(村田喜代子)
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