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やきものが登場する物語
Vol.19
人が見たら蛙に化れ
(ひとがみたらかえるになれ)
発行所
朝日新聞社
著者
村田喜代子(むらたきよこ)
定価
1900円
ジャンル
小説

 美か?ゲテモノか?妖怪か?幻のお宝を追って、九州の山里から、萩、ヨーロッパへと、三組の男女のさすらい旅…。モノ恋いか、人恋いか、美の蛙と道行きの切なくておかしい初の骨董小説。(カバー広告より)


 自分だけのお宝は、決して他人には知られたくないもの。
「人が見たら蛙に化れ」は、そんな人間の占有欲を見事に言い表したタイトルから、自然と導き出されるようにして書かれた、骨董の世界を巡る三組の男女の物語です。

 骨董商を営む馬爪建吾と別れた妻の富子。ハタ師の飛田と季子。盗掘師の萬田と安美。
 物語は馬爪建吾の話を中心に展開しますが、小説としては他二組の物語の方がよく書かれています。
 飛田と季子の場合は、季子が乳がんを患い手術をするといった話を通して、突如として突きつけられた現実に向き合う夫婦の姿を描き、萬田と安美の場合は、無垢な存在であったはずの安美の男関係を巡る話によって、男女の悲哀を描きます。とくに季子の、乳がんを宣告されてから手術に至るまでの振る舞いについては、女の心境が深く捉えられています。そして、乳がんの患者を理解する上で大切な事柄を伝えておきたいと思う、作者の熱意を感じます。

 小説の舞台について触れておきますと、物語の前半部分が「うまか陶」のお膝元である佐賀県を中心に描かれていますので、このコーナーをご覧のみなさまには馴染みの深い地名がどんどん出てきます。唐津、武雄、有田、伊万里……。傍らに九州・山口の地図を広げて読むと、より一層その位置関係がはっきりするでしょうし、佐賀県を訪れたことのない方にとっては、さまざまに想像が膨らむことでしょう。
『龍秘御天歌』で有田の渡来陶工たちの「弔い」の様子を活き活きと描いた村田喜代子氏の、朝日新聞連載時に多くの話題を呼んだ作品です。
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