絵唐津は、素地(きじ)に鬼板とよばれる鉄の顔料を用いて絵付をする、唐津焼を代表する技法です。李朝風の抽象文や幾何学文、人物、動物、草花、風景など文様はさまざまで、指や筆がつくりだすその奔放なタッチと力強さが身上といえるでしょう。1590〜1610年代の「鉄絵芦文大皿(てつえあしもんおおざら)」では、皿の縁に配した格子目と波の文様をアクセントに、皿の内面をカンバスに見立て、穂を垂らしたイネ科の植物がのびのびと描かれています。鉄の発色も絵唐津の見どころで、焼き方によって赤みが生じたりとその変化の豊かさも一興です。また絵唐津は茶碗などより向付、向皿、鉢の類が多いのも特徴の一つで、絵と同様器形も洒落たバラエティーに富んでいます。 |
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■鉄絵芦文大皿(絵唐津)(てつえあしもんおおざらえがらつ) 1590〜1610年代 C佐賀県立九州陶磁文化館所蔵 |
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黒釉(くろぐすり)をかけた上から藁灰釉(わらばいゆう)を流し、景色(釉色の変化)を表現したもの、またはこの2つの釉をかけ分けたものを朝鮮唐津といいます。黒釉、藁灰釉は唐津焼の代表的な釉(うわぐすり)。黒釉は鉄分を主成分とし、透明感のある色調から「黒飴釉」ともいわれるのに対し、藁灰釉は藁灰(わらばい)で作られた透明感のない白釉です。これらをかけ分けたときの黒・白の意匠は素晴らしく、その境界に生まれる青や紫、黄色などの微妙な景色も見事です。水指や壷、花生(はないけ)、徳利などに多く、とくに水指は昔から茶人のあいだで高く評価されています。 | |
■叩き朝鮮唐津水柱(たたきちょうせんからつみずつぎ) 17世紀 |
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斑唐津は、唐津でももっとも古い岸岳系の窯で多く用いられた技法です。藁灰で作られた白色の斑釉(まだらぐすり)をかけたものを斑唐津といい、別名を白唐津ともいいます。斑釉の色は白からグレーがかったものまで幅広いのですが、全体的に不透明な白いやわらかい肌を作り出します。「斑」と呼ばれるのは、粘土に含まれている鉄分や燃料の松灰が器の肌に溶け出し、青や黒の斑点が現われることからです。よって白い肌と斑とのコントラストや斑の濃淡などが最大の見どころといえます。味わい深く温かい肌味が魅力で、昔から高い評判を得ている酒器をはじめ皿や碗、茶入などによく使われています。 | |
■斑唐津ぐい呑(まだらがらつぐいのみ) 16世紀 |
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素地がまだ乾かないうちに文様を施し、異なった色の土を塗ってさっと削り取れば、窪みにその土が残ります。このように、文様に異なった土を埋め込んだようになるのが象嵌です。文様には花形のスタンプ文(印花)や巴文、線彫、雲鶴などがあり、それらが器に規則的に連続していたり散らばっていたりと賑やかな雰囲気を漂わせています。「三島唐津」はこの象嵌技法を用いたもので、17世紀からの唐津焼に多く見られるものです。写真の「象嵌双鶴文瓶<三島手>(ぞうがんそうかくもんびん・みしまで)」は上部に施した3種の花文が印象的で、下の唐草文、よろけ縞文、如意頭文などのスタンプ文と同様白土が埋め込まれています。また、向かい合うように配置された2羽の鶴も同じく白土により象嵌されたものです。鶴の嘴と足は鉄絵具によって描かれています。三島唐津の主な創作としては水指、徳利、皿などが挙げられます。 | |
■象嵌双鶴文瓶(三島手)(ぞうがんそうかくもんびん みしまで) 17世紀前半 C佐賀県立九州陶磁文化館所蔵 |
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陶技のルーツである朝鮮の李朝陶の影響が濃い唐津焼において、三島唐津と並び李朝直伝と考えられる技法に刷毛目唐津があります。地の土の色が黒い場合、白磁に似せるため白土をかけて白くすることを白化粧といいますが、これを刷毛で行い、塗り目の現われたものが刷毛目です。本来なら刷毛の跡は残ってはならないのですが、その無造作な模様がひとつの景色となり、茶人の間でたいへん喜ばれました。そしていつしか刷毛目自体が装飾法となったのです。刷毛目の愛陶家は非常に多く、現在では陶器を焼く窯場のほとんどで製作されています。 | |
■唐津刷毛目文鉢(からつはけめもんはち) 1650〜1740年代 C有田陶磁美術館所蔵 |