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先ごろ福岡の岩田屋で催された「人間国宝・十三代今泉今右衛門展」を見て、久しぶりに快い興奮を味わった。弛(たゆ)まない創作活動の軌跡を一堂に見せてもらったからである。
私は以前この欄で、十三代が急逝されたのを悼む小文を草した。伝統の家を継ぎながら、権威や名誉に甘んじることなく、どこまでも真摯(しんし)に、厳しく勁(つよ)い創造のこころを持ち続けて「作家」の道を歩いた、その姿に敬意を表したのだが、今回の回顧展の会場をゆっくり見て回り、いよいよその感を深くした。
例えば、日本伝統工芸展出品のものを中心に、大鉢が年代順に(亡くなる年の作品まで)展示されていたが、形、大きさはほぼ同じながら、文様には次々に新しい工夫がなされていることが、素人目にもよく分かった。創作者としては当然といえばそれまでだが、事はそれほど簡単なことではないはずだ。作家の裡(うち)なる苦悩が一点一点から伝わってくるようだった。そんな歩みの中から、初期伊万里の技法を色鍋島に採り入れた吹墨から薄墨、さらに吹重ねという十三代特有の作品世界が展開していくのである。
人間国宝認定以後はさらに進み、正に独擅(どくせん)場である。文様は伝統に則(のっと)りながら、より精緻に、より大胆になる。それに吹墨、薄墨、吹重ねの技法が加わり、過剰と思えるほど彩られながら、なお気品を保つ。「妖(あや)しい」と表現したいほどの「十三代今右衛門の色鍋島」の世界である。
そんな中の一点に「色絵吹重ね草花文花瓶」があり、モンドリアンやクレーを思わせるモダンなグレーの文様があり、印象に残った。十三代はもともと、ラフな、ざっくりした、紬(つむぎ)のような風合を好んだというが、初心がこんなところに生きているのだなと思ったのだった。
ところで、この回顧展と併行して、大阪を皮切りに十四代今泉今右衛門さんの襲名記念の巡回展が始まり、11月6日から11日までは福岡の大丸で催される。十四代は十三代の背中を見ながら育った篤実な作家である。十三代とは異なる、どんな展開を見せてもらえるのか、今から楽しみである。
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