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佐賀市のギャラリーで開かれていた中村清六さんの作品展を見た。
中村さんは作陶歴七十年。二十五年も前に「現代の名工」の称号を得、いろいろな展覧会で数かずの賞に輝き、佐賀県の重要無形文化財保持者の指定も受けている。文字通り、現代「白磁」の名人である。これも名人と謳(うた)われた師の初代奥川忠右衛門の衣鉢を確実につぎ、さらに深く自らの道を歩んでいる。
そんな名人の作品を身近で目の当たりにできる歓び。とにかく、八十も半ばを過ぎた中村さんの、衰えを知らぬ作陶生活、その精進ぶりが窺(うかが)えてうれしかった。
何ら奇をてらうことのない、端正な姿形の白磁の器の与えてくれる落ち着き、品のよさ、豊かさ。私たちの想像も及ばないろくろ技術の冴(さ)えを見せる作品もあった。白磁艶消(つやけし)の鉢や蓋物にはぬくもりも感じられた。久しぶりの「眼福」に満足したことだった。
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私は長いあいだ雑誌編集の仕事をしてきた。その間、「やきもの」の特集に何回となく携わった。そのつど“付け焼き刃”的に調べて「知識」を仕入れた。しかし、「やきもの」に限らず何についても言えることだが、机上で仕入れた「知識」だけでは対象は決して近づいてはこない。何よりも物そのものに就かなければいけない。
まず、数多く「見る」こと、それも、いい物を見ることが肝要だ。展覧会などにまめに足を運ぶ習慣をつけるといい。それを繰り返すうちに、おのずと物が見えてくるようになる。あるいは自分なりの物の見方ができるようになる。その段階で知的欲求が興れば、本などを読んで「知識」を得ればよい。言ってみれば、自らの審美眼を「知」で裏打ちするのである。その種の本は書店の棚に溢(あふ)れている。
その先に、実は、手に入れる、使う、という段階があるのだが、それはまた別のはなしになる。
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