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「ここから眺める夕焼けは一段と美しいですよ。山水画の世界のようで、気持ちが落ち着き仕事に集中できる」。愛犬を連れ散策する作務衣姿の野中拓さんが足を止める。眼前は見渡す限りの茶畑。深緑色が山々を覆う。この日は、吹雪に見舞われあいにくの天気だったが、遠くに見えるりょう線はうっすらと美しい起伏を描いていた。 37歳で嬉野町内に窯を構えて4年後、山あいの金松地区に窯を移した。妻、子ども3人と暮らす。「ここはすべてわき水での生活。四季が豊かで空気は澄み星もきれいですよ」。理想に近い環境を得て、作陶への意欲がわくという。 白磁に古来の着物の柄を刻み込んだ「矢絣(やがすり)彫文」は独自の技法だ。細い矢の形が長さを変え器の周囲を流れるように取り囲む。シンプルな白磁にリズムを与え、柔和な表情を見せる。「彫りを入れるだけで2日間はかかる。根気がいる作業です」。ち密な仕事から生まれた端正な文様に上品な風情が感じられる。 高校時代から水墨画に興味を覚えた。一時、家業の石こう成型業を継いだが、地元の琥山(こざん)窯の小野祥瓷さんの勧めで陶芸家を志した。有田町の窯業試験場でろくろを学んだあと、師と仰ぐ小野さんのもとで15年間、みっちり修業を積んだ。 苦い思い出もある。修業を始めて2年。ろくろが少しできると思っていたころだ。小野さんから「手ごろの花瓶をたくさん作ってくれ」と言われ1、2カ月かけ何とか仕上げた。だが、3点だけ残し後はことごとく割られてしまった。「そのうち(理由が)分かるよ」とだけ言われ腹が立った。 「今思えば形を大事に、小さい物ほど力を入れないといけない。例えばぐい飲みだからといって手抜きするなという陶芸家の心構えを説きたかったのだろう」。いい師匠につき、心から感謝しているという。 白磁は井上萬二さんの影響、天目はその造形美に引かれた。作陶歴25年。これまでいろんな技法に挑戦したものの、今は白磁と黒の天目にこだわる。「白磁は、自分の味が出せる矢絣彫文で奧を極めたい。天目は形がはっきり見えるので難しい。青みをかけながら深みをつくっていく。天目の黒と白磁の白、それぞれに味わいがある」と目を輝かせる。 18世帯の集落。自宅そばの展示場には、白磁、天目のほか青白磁の作品も並び気品が漂う。県内の陶芸家ではもう中堅の野中さん。大英博物館展へ向け、「こんないい機会は二度とない。日本の有田ということを考え、今の技法に磨きをかけたい」と、熱い胸の内を語った。 |
■ひらく窯 嬉野町岩屋川内乙 轟小学校から約3.2km。車で7〜8分。登り口に案内の看板。 駐車場約5台。展示場あり。 電話0954(42)1726 |
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このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。 ※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。 |
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