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「こなから」という言葉を最初に目にしたのは、たしか山本周五郎の時代小説(作品名は覚えていない)の中だった。
辞書には「小半(こなから)。半分の半分。特に一升の四分の一で二合五勺(しゃく)。おもに酒・米について言う」とある。それから転じて二合五勺入りの徳利のことを言うようにもなったらしい。語の響きよく、前近代的な雰囲気も伝わって、私の趣味にも合う。いつか自分でも使ってみたいと思うようになった。
徳利には貧乏徳利と燗(かん)徳利があって、それぞれ流れがあるようだが、話が煩雑になるので略す。貧乏徳利はもともと江戸市中の呼び名にはじまったらしい。銘々が所有して、酒を量り買いするときの容器で、二合五勺入りだった(まとめて一升買えない人たちが利用したのである)。それがいつか燗徳利としても用いられるようになったとか。産地としては陶器が美濃高田(岐阜)、丹波立杭(兵庫)、磁器は波佐見(長崎)だったといわれている。それが江戸時代後期から明治になると、有田、波佐見の磁器が全国的に普及したのだそうな。今ふつうに使われている一合入りの徳利が登場するのはもっとずっと後だという。
私はいつからか日本酒は冷や(常温)で飲むのが好きになった。二〜三合の酒を大ぶりのぐい呑みでちびりちびり飲(や)る。そのとき、実は「こなから」を使いたいのである。ここ数年、探すともなく探しているが、なかなか思い通りのものが見つからない。
どこかの古道具店に行けば、さほど高値ではなく、意外に容易に見つかるのだろうが、もっぱら経済的な理由から私は「骨董」には近づかないと決めているので、その類の店には入ったことがない。
欲しいのは、ちょっと厚手の磁器で、あんまり洗練されていない「鈍」な感じで、しかし、姿かたちが好ましいもの。白磁では殺風景なので、気の効いたシンプルな絵柄が呉須で描いてあればと思う。そんな「こなから」はどこにあるのだろう。
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