Vol.29 |
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修羅の器
(しゅらのうつわ)
■発行所
光文社時代小説文庫
■著者
澤田ふじ子(さわだふじこ)
■定価
571円
■ジャンル
歴史小説 |
信長の麾下として各地を転戦する常滑城主・水野監物。彼は常滑のやきものによって得た財力を背景に、茶匠武野紹おうや連歌師里村紹巴と懇意になった。(中略)戦国に生きた人々の様々な感情と生き方を活写。(カバー広告より)
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戦国史を代表する人物である織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。この小説は彼ら三人の武将と関わり合いをもちながら、常滑のやきものが辿った運命とともに、時代の憂き目を見ることとなった常滑城主・水野監物の物語です。
信長に仕えた水野監物は、常滑焼きを禁止とする禁窯令を破ったことで、信長の反感を買い、雌伏のときを過ごすことになります。
さらに、明智光秀が謀反を起こした本能寺の変において、彼は信長憎しの思いから、信長の弔合戦には動かずに、光秀軍への加勢に動いてしまい、その後蟄居を余儀なくされます。
五年の歳月ののち、秀吉が催した大茶会での席。彼はそこで、常滑のやきものを茶の湯に取り入れてもらうよう秀吉に働きかけるつもりでいました。果たして監物の念願は叶うかどうか。秀吉と邂逅するこの場面が、物語の最大の山場となっています。
織田信長に禁じられ、さらには関白秀吉にうとまれた常滑のやきもの。監物は常滑焼きの未来を憂いながら、終にはその幕を引くこととなります。
さて、物語の縦糸として扱われている常滑焼きの衰退の原因については、巻末に大野由美子氏の手厳しい解説があります。
「監物は作品を味わう鑑賞者にすぎず、この時代の常滑の陶工たちも進取の気象に欠けているのである」「もしも常滑の名匠らが、時代の精神や流行を肌で感じていたならば、常滑の未来は違ったものとなっていたかもしれない」
この小説はそういった観点からも、為政者や職人がどうあるべきかを伝えてくれるものとなっています。
■関連リンク 「蛍の橋」(澤田ふじ子)
■関連リンク 「天空の橋」(澤田ふじ子)
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