Vol.9 |
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蛍の橋
(ほたるのはし)
■発行所
幻冬舎
■著者
澤田ふじ子(さわだふじこ)
■定価
1600円
■ジャンル
歴史小説 |
野々村仁清のもとで新しい茶陶の可能性にかける平蔵、真田幸村の遺児として豊臣家の再興を狙う大助、平蔵を永年慕い続ける幼馴染みお登勢―。豊臣から徳川へ…時代の激流にのみ込まれまいと抗う男女三人の苛酷な運命。(帯広告より)
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豊臣の時代から徳川期へ。時代の移ろいとともに衰退が顕著となった美濃茶陶を憂い、新しい茶陶を完成すべく京で修行に打ち込む平蔵の物語を中心に、徳川転覆を企て暗躍する豊臣家残党たちを描いた作品です。
瀬戸六作の孫にあたる主人公平蔵の、焼き物にかける情熱と言動が逞しく描かれ、とくに衰退していく美濃の復興に寄せる熱き思いは、ときに読むものの胸に迫ってくるものがあります。
京の焼き物問屋「久々利屋(くくりや)」で初めて挑んだ目利きのとき、次々とはねのけた唐津のやきもの。それに対して唐津の者が言った「あまりではございませぬか」との叫び声に、「わしとて好んでこの目利きをしているわけではございませぬ。唐津と美濃のやきものが、どうしてこれまで衰えてしまったのか、わかるものなら孫助どのからも教えていただきとうございます」と平蔵は突然、両目から涙をわかせます。
物語は進むにつれて、徳川転覆を企てる者たちの大立ち回りへと主題を移し、焼き物の話からは少し離れていきますが、小説の全般を通して状況説明される、「久々利屋」を舞台にした美濃をはじめ、瀬戸、唐津といった焼き物と、それに代わって台頭しはじめた有田、伊万里の焼き物の話は、その当時の文化・流行を知る歴史入門書としても読むことができます。
歴史と歴史小説は、私たちが日常に眺めている山脈に似ている、と作者があとがきに書いているように、遠望すれば単純に見える歴史の中にも、それぞれの時代に生きる人間たちの真実が隠されているということを実感する時代小説です。
■関連リンク 「天空の橋」(澤田ふじ子)
■関連リンク 「修羅の器」(澤田ふじ子) |