トップ >> 佐賀県の陶芸作家 >> 溝上藻風 |
|
「夕焼けと朝焼けのころが、一番夢のある時間帯じゃないでしょうか」。溝上藻風さん(60)の作品は、夕焼けと朝焼けのテーマが多い。ギリシャ・クレタ島で見た朝焼けと、白石町にある肥前犬山城の朝焼けに圧倒された体験がこのテーマにのめり込むきっかけになった。門外不出の色の出し方は、遠く南米の技法を応用。焼き物をキャンバスに、溝上さんは『世界サイズ』の作品に取り組んでいる。 昭和14年に佐世保市江永町の窯元に生まれた。有田工業高校の窯業科を出て、磁器制作をしていたが、「磁器は素材が決まっているから、あとはデザインの勝負。陶器は土を探すことから始まり、幅が広い」と、陶器づくりを決意した。 昭和41年、伊万里市大坪町に今岳窯を開いて独り立ち。材木商から譲り受けた廃材を使って家を建て、ゼロからの出発だった。一帯は安土桃山時代から「唐津」が焼かれた古窯跡が密集しており、いい土に恵まれ、陶器づくりには絶好の場所だった。 井上萬二さんや中里太郎右衛門さん、重利さん兄弟に焼き物づくりを教わり、独特の深い柿(かき)色を出す「柿天目釉(ゆう)」の作品づくりに没頭。昭和45年「西海の夕映え」で日展初入選を果たした。昭和50年ごろからは、当時珍しかった焼き締めを研究し、朝焼けや夕焼け空を表現。日展での入選は、これまでに14回を数える。 焼き物づくりのイメージや技術を求め、海外へ足を運ぶ。子どものころからあこがれていたギリシャを訪れた際、クレタ島の朝焼けに出合い、東南アジア各国や中国ではさまざまな技法を研修したり、古窯を訪ねたりした。「焼き物を通じて、人生を三倍楽しみたい」と意欲的だ。 ライフワークとして集めている唐津や中国、韓国などの古い陶器も大切な『教科書』になる。安土桃山時代、伊万里で焼かれた茶器の図柄を見ては「単純だからこそ、世界が大きく見える」と妙技にうなり、豊かな空間表現の参考にする。昨年、思い出深い旧居を解き、家を新築、工房には溝上さんと息子たちのろくろが並ぶ。長男の良博さん(33)は鈞窯(きんよう)や伊羅保(いらぼ)、二男の雅人さん(30)は父から引き継いだ柿天目釉を中心に作陶に励み、今岳窯に新たな活気を吹き込んでいる。 溝上さんは今も、土を探しに伊万里市や北松浦郡内へ。「いい土に出合ったときの胸の高鳴りは、何物にも勝ります」と話し、ドキドキしながら焼き上がりを待つ。 「壺中風月」。この言葉は、溝上さんが東大寺の僧からもらった『宿題』という。「難しい言葉ですが、今は『壺(つぼ)の中に時間がある』と思って作品に向かっています」。溝上さんが焼き締めの肌に映し出すあかね色の空は、刻々と変化しているようにも見えた。 |
■今岳窯(いまだけがま) 伊万里市大坪町白野 JR伊万里駅から車で10分。昭和バスの十三塚バス停から徒歩3分。 駐車場あり。 電話0955(23)3583 |
|
|
||
このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。 ※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。 |
Copyright(C)2002 Fukuhaku Printing CO.,LTD このサイト内の文章や画像を無断転載することを禁じます |