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バイク屋の倉庫を改造したという工房。化粧土を含ませたスプレーガンを巧みに操り、生素地(なまきじ)にグラデーションを施していく。描き出される絵は雲のようにも波のようにも見え、見る人それぞれの想像力をかきたてる。
唐津市で生まれた。絵をかくことや物をつくることが好きで、中学時代は実家で自動車の板金、塗装も手伝った。家業を継ぐつもりでいたが、有田工業高校教諭だった親類の誘いで、有田へ。同校定時制デザイン科で学びながら、親和陶磁器で絵付けの仕事をした。 卒業後も有田町に残り、桂山窯で土ものの修業を始めた。そこで波佐見のろくろ職人と出会い、陶芸にのめり込むことになる。「ろくろを触ったら『君は筋がいい』と褒められて…。それから底なし沼ですよ」。基礎を学び直そうと、窯業試験場にも特別研修生として週一回通った。 その研修の場で、同じ有田町の陶悦窯の関係者と知り合い、デザインの仕事を受け持つようになった。「絵付けやうわぐすりの調合とかもやって、自分の時間にろくろを学んだ」と言い、展覧会用の大物づくりにも取り組んだ。 転機となったのは平成元年。「時代が変わったので、自分も変わろうと思った」。独り立ちを決心し、北波多村に窯を構えた。「唐津焼発祥の地で磁器をやる者がいても面白いんじゃないかと思って。新しい個性と技を模索する自分への挑戦でもあった」と振り返る。窯の名の由来も面白い。唐津の民話「裏町勘右衛」の響きと、自らのあだ名「かんちゃん」のごろ合わせで「冠音(かんね)」とした。 生素地に化粧土を吹き付けて、素焼きで焼き付ける手法。筆以外にスプレーで描く方法は、塗装の経験から思いついた。8色を主に使い、色を重ねて変化をつけたりもする。茶わんや湯飲み、つぼ、花瓶などに、説明的ではない、おぼろげな世界を描いている。 その作風がひところ「漫画チック」と酷評されたことがあった。「伝統的な人の目には深みのない作品と映ったのでしょう」 最近は磁器の形や色のバランスにこだわることが多くなり、絵や色は作品の「引き立て役」に回している。白磁の空白を生かしながら、磁器の持つ冷たい雰囲気をささやかな絵や色でいかに和らげるか、試行錯誤を続けている。 「これまでは絵や色といった”ごちそう”が多すぎた。ちょっと食べるぐらいが、また食べたくなるでしょ」。自らの作風を常に見つめ直す謙虚な姿勢が、今後のさらなる飛躍を予感させる。 |
■冠音(かんね)窯 東松浦郡北波多村竹有 JR唐津駅から車で約20分。 駐車場、展示場あり。 電話0955(64)3172 |
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このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。 ※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。 |
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