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そびえ立つ山々を染付で描いたつぼが、目の前に出された。顔を近づけてよく見ると、木の枝までもが、ち密に伸びている。遠くの山は木立が淡く小さい。一方、近い山は濃く大きく描かれ、やがて木の一本一本が一枚の葉っぱの形だということに気付く。葉脈を複雑な木の枝に見立てながら山を描くこの「木の葉手法」は、藤井朱明さんの代名詞でもある。 モクレンなどの若葉を、和紙染めのように素焼きに押し当てて呉須(ごす)をにじませると、葉脈が濃い線となって浮かび上がり、いくつも並べることで山が形作られる。藤井さんは「木の葉の形を生かすには山が一番。描いているのは、心の中でイメージした有田の風景そのもの」と説明する。この作風が生まれたきっかけは、散歩中に見つけた、葉脈だけとなった一枚の木の葉だった。 骨とうにも通じる藤井さんは、「明治のころ、ろう板転写の焼き物が作られたが、これらはいわば手抜き品。だから今もなかなか価値が上がらない」と、自らの作品に対しては丹念な作業を惜しまない。一つの器に山を描き上げるのに一日から二日かけているという。 藤井家は、江戸時代に被官窯焼きとして名字帯刀を許されるなど代々陶芸に携わってきた家系。藤井さんの陶歴は、15歳の絵付け見習いに始まる。20代には地元の陶磁器メーカーに勤務の傍ら、日展出品に挑戦した。初入選を果たした翌年に絵付け職人として独立し、さらに10年を経て開窯した。 この間、糸を巻き付けた素焼きに水で溶いた土を吹き付け、糸を外して立体感を出す「木綿糸手法」をはじめ、さまざまな技法に取り組んできた。一時古伊万里ブームとなったころには、売れる商品をどんどん作り上げたこともあったが、そのことが「商売と芸術は別物」という思いを強めたという。「見栄えの良いものが売れ、本当にいい作品は売れにくい。そこが苦しい」との悩みは今も続いている。 藤井さんは6年前に県芸術文化功労賞を受賞した後、健康上の理由で陶芸展への出品や個展など表立った活動を控えている。代わって長男剛さん(31)が青白磁による積極的な創作活動を展開中だ。父とは違う作風で道を追い求める後継者に、期待のまなざしを向けている。 藤井さん自身も「木の葉技法では、別の表現もできると思う。なんとか行き詰まりを見せている有田に風穴を開けたい」と、再び外へ向けた活動に意欲を見せている。 |
■朱明窯 西松浦郡有田町中樽 JR上有田駅から徒歩5分。 駐車場5台分。展示場あり。 電話0955(42)3243 |
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このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。 ※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。 |
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