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いくつかの選択肢から物事を決める時、いつも頭に浮かんだのは「自分と波長が合うか」だった。陶芸の道を選んだ時もそうだった。作風にもその考えが顔を出す。唐津焼の伝統の重さを感じながらも、少しばかりスタンスを置く。「手本を追い求めるのではなく、自分の世界を築きたい。作り手の顔が見える作品を作りたい」。 唐津東高卒。「物づくりが好きだったから」九州産業大学デザイン科でクラフトを専攻した。4年間で陶磁器、木工、彫金、ガラス工芸などを学んだが、進路を決めるには至らなかった。 研修生として大学に残った72年の夏休み。種子島を訪ねた。能野焼(よきのやき)復興のために招かれていた中里隆さん(唐津市見借・隆太窯)の作陶活動を偶然手伝うことになった。 「ひと月いる間に何か焼いたとは思うが、ほとんどは雑用係。ただ、妙に生活のリズムが合った」と熊本さん。「こういう生き方してみようかな」。初めて陶芸に心が向いた。 鳥取での2年間の陶芸指導員を経て76年に帰郷。工房を開いた。 「食べるため」の喫茶店を営む傍ら、作陶に取り組んだ。87年には、染色や竹細工なども含めた九州の工芸家グループ「知新会」の発会に知人の誘いで参加。初めて「団体」に所属した。日展などへの応募のきっかけになった。 唐津焼を手がける一方で「自分なりの作品」も大切にする。食器類には色土を塗り重ねる「彩泥(さいでい)」、展覧会出品作品には刻印をつけて色土を塗り込む「象嵌(ぞうがん)」を多用する。ろくろはほとんど使わない。「ろくろに必要な勢いや気合が苦手。コツコツやる方が性格に合う」と笑うが、形にはこだわり続ける。 黒地に象嵌で白色を施した作品に特徴がある。まず刻印して黒化粧土でコーティングして素焼き、そして白土を塗り込んで本焼きする。ふつうは素焼き前に終える象嵌を後で行う特別な手法で、白と黒が際立つ作品に仕上がる。 10年以上続けてきた白と黒がモチーフの作品だが、「そろそろ過渡期」という思いもある。最近は白黒のくっきりした作品に加色を施し、グラデーションをかける作品にも取り組んでいる。 「作り手が心地よく作れた作品を、使い手がいいと思ってくれることが一番」と感じている。 窯の紹介文には「仕事を楽しむことが結果的には楽しい器につながるのではないかと。伝統の風土の中で、自分なりの唐津焼を模索しています」とある。ここにも飄々(ひょうひょう)とした熊本さんのこだわりがうかがえる。 |
■赤水窯(あかみずがま) 唐津市鏡赤水4758 国道202号バイパス鏡山入り口の赤水交差点から東へ約100m。JR虹の松原駅から南へ徒歩10分、唐津駅からは車で15分。 電話0955(77)2061 |
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このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。 ※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。 |
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