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どんな色にも染まる柔軟さとどんな色にも染まらない頑固さ―。まるでなぞ解きだが、白という色を言い表す上でこれ以上の言葉はないように思える。無彩色がゆえに一切の妥協や甘えは許されない。白という色にはそんな厳しさが存在する。 「確かに白磁には小手先の技術やごまかしなどは一蹴(いっしゅう)されるほどの難しさがある。ただ、子どものころからずっと白磁を見て育ってきたし、その美しさに魅了されているのも事実。だから作陶の道に入ったときから作りたいと思ったのは白磁だけ。現段階ではほかのジャンルに手を出そうとは考えていない」 台頭著しい県内の若手陶芸家の中でも、突出した存在感を漂わす一人。しかし、窯元の長男として生まれたにもかかわらず、長期休暇で帰京した際に家の窯の手伝いをしたにすぎず、大学を卒業するまで本格的な修業は積んでいないという異例な経歴の持ち主。 「昔から跡を継がなければということは考えていたけど、大学を卒業してからでも遅くはないと思った。むしろ陶芸以外の分野でいろんなことを経験して、それを作陶に生かすことができれば自分にとってよりプラスになると思った」 現代の名工、有田焼ろくろ成形の第一人者、人間国宝…。父親は言わずと知れた井上萬二氏。卒業後すぐ、父親に師事した。土こねに始まりろくろひきまで徹底的に仕込まれた。 「萬二さんの長男だから…」。周囲の見る目は当然、ほかの作家たちに比べ厳しかった。しかし平成3年、5年と立て続けに一水会展(日本工芸会系の陶芸展)の最高賞である一水会賞に輝き、その力量を実証した。18年間、わき目もふらずろくろと対じしたあかしといえよう。 「最近、ようやく展示場に自分の作品を置けるようになった」と笑いながら話す。それは師匠である父ではなく、康徳さんの作品を求める客が増えつつあることを物語っている。裏を返せば井上康徳という一人の作家として自立しつつあることを意味する。 バレエの講師を務めていた江利子夫人との間には小5の長男と小2の長女。週末の午後から一緒に外出するのが楽しみと父親としての側面もチラリ。「妻がしっかりと支えてくれるから仕事に専念できる」と奥さんへの感謝も忘れない。 1日まで東京・銀座の和光での初めての個展を開いたばかり。満を持しての個展だけに「ようやくスタート地点に立てたような気がして、感慨ひとしおです」。 白磁の神髄を追究したい―。言葉の端々からその思いが伝わる。偉大な父の跡を継ぎ、それを乗り越えるまでは苦悩と試行錯誤の連続だろう。しかし、その壁を乗り越えたとき、新しい白磁の世界が有田の地に花開く。 |
■井上萬二窯 西松浦郡有田町西部丁307 JR有田駅から車で5分、徒歩で25分。 駐車場約20台。展示場あり。 電話0955(42)4438 |
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このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。 ※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。 |
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