いかにも唐津陶らしい茶碗です。縮緬ジワの出た土味を見せ、やや砂気の多い陶土ですが比較的薄作りです。口作りは少し開いたそり型、高台の作りは直立した感じで小さく纏まり、この碗を品良く引き締めています。鉄砂で両面に草文を無造作に、軽妙なタッチで描いていますが、この模様を唐津では「とくさ文」と呼び、皿や向付などによく用いています。窯場周辺の手近な草木や自然の風物を主なモチーフにした、往時の陶工たちのごく自然な製作態度がしのばれて好ましく、得も言われぬ素朴な運筆にも心を魅かれます。釉面は赤味を帯び、鼠色に発色して、少し生焼けの感じです。また高台脇の部分に薬掛けのムラがあり、それがいい景色を添えているようです。生れは江戸初期、松浦唐津系の甕屋の谷窯と推われます。 |