トップ >> 元気印の窯元 >> 器工房えんや |
|
有田周辺には本当にたくさんの窯元さんがあります。まちの風景に自然ととけこんでいるので「こんなところに窯元さんがあったかしら?」と見逃してしまうほどです。また場所柄、磁器の窯元さんや絵付師さんなどの工房が多いのですが、今回おじゃました「器工房えんや」さんは有田では珍しく陶器を中心に制作されている窯元さんです。あたたかみのある粉引きや、しぶい色合いの焼き締めなど、土味の魅力をダイレクトに楽しめるような器をつくられています。暑い夏の一日、セミの声をBGMに、窯主である山口智之さんにお話をうかがいました。 ―こんにちは。こんなところに工房があったなんて、今まで気付きませんでした!道から少し入っただけなのに、自然がいっぱいですね。 こんにちは、ようこそ。このお皿をつくり終えるまで少し待っててください…。 (ろくろの作業が終わって)お待たせしました!うちの裏手は金毘羅さんの神社になっているんですよ。だから緑が多くて気持ちいいでしょ。工房の真横は、龍神様が祀ってあるんですよ。ほら(窓から顔を出して)、龍神様の真横で窯を焚くなんて恐れおおいなあ、と友達からもからかわれますけど(笑)。龍神様の反対側の窓の外は、小川なんですが、ここはホタルがきれいなんですよ。小川のせせらぎを聞きながら仕事が出来るのはいいですよ! ―ホタルですか!水がきれいな証拠ですね。外は蒸し暑いのに、工房の中はクーラーなしでもひんやりしてますね。ここでお仕事を始められて、どれくらいたつのですか? 独立してからだから、えーっと9年目ですね。当初は仲間と二人で仕事場として使っていましたが、まったく一人で仕事をするようになったのは4年目です。学校を出てから7年間は有田焼の生地屋さんに勤めていました。そのころは有田でよく見かける、大皿とか大きな飾り壺を型でつくる作業を担当していましたね。そろそろ自分も独立して、好きな物をつくりたいなと考えはじめた時に、「ろくろの技術もまだ一人前じゃないのに辞めたほうがいい」と周囲の人に言われたのですが、「えいやっ!」と思い切って独立しました。不安がないわけじゃなかったけど、一人前じゃないから早く独立しなきゃと考えていましたから。 ―「一人前じゃないから」とはどういうことですか? 独立したら、全部自分の責任じゃないですか。もちろん生活もかかってくる。そしたら、どの作業も必死でこなすわけですよ。「一人前じゃないから無理」ではなくて「一人前じゃないから人よりがんばらなくちゃ」という気持ちで独立したんです。そりゃ失敗もいろいろありましたよ。いつだったか、あわてて出品した展示会の作品を、講評の先生に「これは間に合わせで描いた絵付けだ」と見抜かれちゃって。 有田は、ろくろ、絵付けなど各工程が分業制なんですが、一人で仕事をするようになってその訳がよくわかりました。ろくろを一生懸命やればやるほど、今度は手が震えて絵筆が持てなくなる。これはいかんなと思い、ろくろのプロフェッショナルにならないことには一人では物がつくれないから、絵付けは途中で辞めることにしました。じゃあ形だけで、どんな器がつくれるかと試行錯誤していたときに、なんだか唐津焼が気になって。唐津焼ってもちろん絵付けしたものもあるけれど、姿形だけでダイレクトに器の表情が伝わってくるんですよ。そんなこともあって陶器を中心に制作するようになりました。今では9:1の割合で陶器がほとんど。 ―いろんな陶器が並んでいますが、このカップは味わい深くて、しかも耳がついてかわいらしい形ですね。 これは最近気にいっている土でつくったものなんです。表面にぽつぽつ茶色い斑点があるでしょ。これは鉄分が表面に出てきたもの。そして触るとわかるけど、ざらっとした粒々も表面に出てますが、これもこの土の特徴なんです。割と深いところから採掘した土で、木の根っこなんかもそのまま入っているような土。普通はそういういらない物を精製するのですが、僕はあえてそのまま使っています。 この耳は、カップを手に持った時にちょっとひっかかりどころがあればと思い、付けてみました。土味のする陶器ってどうしても、若い人には敬遠されがちですが、ちょっとしたことで「何かほっとするよね」と感じてもらえるかもと思って。やっぱり色んな人に見てもらって、土味のよさを知って欲しいですからね。 実は私の実家は有田焼の販売をやっていたんですよ。家にはいつもたくさんの有田焼が並んでいて、子供の頃、いたずらして割ってはよく親父に叱られてました。もしかしたらそれがトラウマになって磁器じゃなくって陶器にはしったのかも(笑)。もちろんトラウマは冗談ですよ、割って叱られたのは本当だけど(笑)。 ―あはは、トラウマになるほど割るのも大変そうですね(笑)。ところで「器工房えんや」というネーミングですが、山口さんは「エンヤ(アイルランドの人気ミュージシャン)」のファンなのですか? いやあ、人からよくそう言われますけど、「器工房えんや」と「エンヤ」は無関係です(笑)。 「えん」は縁と炎の意味なんです。炎はまぎれもなく窯の炎(えん)。縁は人の縁のこと。何の仕事でも一緒なのでしょうけど、仕事を行うのに人の縁ってすごく大切なものなんですね。僕は一人でここで仕事をしていますが、知人の紹介で来てくれた商人さんが気に入って発注をかけてくれたり。またその繋がりから、大きなレストランからの注文がきたり。仕事だけじゃなくって、もちろん人の縁は話題や情報、楽しさも運んでくれます。一人で仕事をしているにもかかわらず、一人じゃないわけです。 よく陶芸家というと、山奥で誰とも会わず、仙人のような暮らしをしていると想像する人が多いじゃないですか。それで食べていければいいですけど、現実はそんなことはないし(笑)。場所柄、窯業大学校の学生さんも、よくここに遊びにきてくれるのですけど、意外と仙人のような暮らしにあこがれている人が多いのね。それはそれでいいけれど、独立したけりゃ卒業してすぐ独立したら、とすすめています。自分で決めた道だし逃げられない責任がすぐにくっついてきますしね。そして人の縁がどれだけ大事かってことも身をもって分かると思うな。人間関係がわずらわしいから独立するっていう人もいるけれど、僕はそれはちょっと違うような気がします。 ―なるほど。最後に山口さんの将来の夢をお聞かせください。 将来は、この「器工房えんや」に人が集まってくるような場に成長させることができればいいなと思います。そこから、僕だけじゃなく訪れた人同士にもどんどん縁が広がっていけるような場にしていきたいなと考えています。 作業場には制作途中のものがたくさん並んでいました。中でも目をひいたのは1m以上もある長皿。これは磁器でしたが、とある東京のホテルレストランで使われる予定のものだとか。「なんとかつくってみてくれ」と商人さんからお願いされて制作しているそう。「こんなおもしろい仕事、縁があってこそ僕のところに回ってきたんだなと思います」と、謙虚な山口さん。 「直接お客さんと接することができるから、展示会には積極的に出店しています」何気ないお客さんとの会話の中に、次の制作のヒントが見つかるのだそうです。 |
|
|
Copyright(C)2002 Fukuhaku Printing CO.,LTD このサイト内の文章や画像を無断転載することを禁じます |