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4月に博多大丸で催された「青い宇宙」と題した中島宏展のことを書いておきたい。何やかやに取り紛れて最終日の午後、やっと会場に駆けつけることができ、見逃さないで本当によかったと思った。それほど感銘を受けたのである。
今回の作品では、特に器形の素晴らしさに目を奪われた。高さ40センチを超える彫文の壷の、完成された揺るぎない形と圧倒的な存在感には目を瞠(みは)るものがあった。高さ30センチほどで胴径36〜38センチの、彫文あるいは彫文掻落(かきおとし)の、丸みのある壷が何点も展示してあったが、その丸みには張りがあり、文はいよいよ自在で、凛(りん)とした佇(たたず)まいだった。また、線彫文の花器には見る者に緊張を強いる勁(つよ)さが感じられた。青磁特有の貫入はいずれも繊細で美しく、乱れがなかった。
今回初めて見て驚かされたのは露胎釉彩の壷であった。焦茶色の器に橙(だいだい)や薄緑の色を散らした青磁部分を振りかけたような、現代抽象絵画を立体的な器に写したような、誠に不思議な趣の、しかし斬新な姿の壷だった。ご本人に伺ったら「土を見せたかったんですよ」との説明だった。
中島さんは40年間、青磁一筋に励んで、その作品は「中島青磁」と称されるほどの斯界(しかい)の第一人者である。しかし、今回の個展を見て、中島さんがその名声に安住することなく、果敢に新しい作風に取り組んでいることを知らされたのである。芸術家たちの多くは、ある段階にさしかかると、それまでの自分の作風をなぞるようになりがちである。年齢による体力の衰えと創造力の枯渇などが原因だろうが、収入の安定も大きいだろう。そうなることを自らに固く禁じて次のステップに進み続ける中島さんに、芸術家の本来的な在り方を見せてもらったような気がして、私は感銘を受けたのである。
中島さんは実作者であるとともに舌鋒(ぜっぽう)鋭い批評家であるが、その鋒先(ほこさき)はと怠りなく自分自身にも向いているらしい。
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