トップ >> 筒井ガンコ堂のガンコスタイル >> vol.4 入門書のススメ(2004年)


 ことし2月に出版された岩波ジュニア新書の『やきものの世界』を一読した。
 ジュニア新書は文字通り中・高生を対象に、現在まで500冊近く出版されているようだが、私はよく利用している。あるテーマに関して、しかるべき著者が、決して手抜きをせず、丁寧に、分かりやすく書いていて、そのテーマの概容と要点を把握するのに便利だからである。この新書で私は農業のことやゴミのことを勉強した。村井康彦氏の『日本の文化』は示唆に富んでいた。

 さて、この本の著者は江口滉(あきら)氏。陶芸作家にして大学教授である。6つの章に分けて書いてある。はじめに「暮らしの中のやきもの」で土器、陶器、磁器などの分類を示し、次に「やきものを見る目を育てよう」で「鑑賞」について。画家・岡本太郎の縄文の美の発見、柳宗悦の「民芸」について述べている。3章は「窯元と美術館へ行こう」で信楽(しがらき)、瀬戸、有田などの産地を訪ね、富本憲吉(とみもとけんきち)記念館のことに触れている。4章は「どのように展開してきたか」で、原始・古代から近現代までの、日本のやきものの歴史を語る。5章は「やきものの科学」で、粘土や釉薬(ゆうやく)、乾燥、焼成を説明、そして「やきものづくりにチャレンジ」の章で終わる。
 私は漠然と、やきものについてはあらまし知っていると思っていたが、この本を読んで知らなかったことが多いのを教えられた。例えば、世界で最も古いやきものは現在のところ、日本の縄文土器であること。粘土に一次粘土と二次粘土があること。また、先月私はこの欄で「何億年かかって出来たか知らない貴重な陶石」と書いたが、岩石から粘土になるには40〜50万年であるという。

 物を鑑賞する目を育てるには、実際に多く実物を見ることが一番大事だが、その上に物についての知識が深まれば、鑑賞する力も深まるわけで、時どきは、このような優れた入門書を読むことをお勧めするゆえんである。


photo■筒井ガンコ堂
本名:筒井泰彦(つつい・やすひこ)
1944年佐賀県生まれ
平凡社にて雑誌「太陽」編集に従事。
佐賀新聞社で文化部長、論説委員など歴任。
元「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著)、

「必冊 池波正太郎」等
Copyright(C)2002 Fukuhaku Printing CO.,LTD
このサイト内の文章や画像を無断転載することを禁じます