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幼いころから「おてしょ」という言葉は耳慣れたものだった。祖母や母がよく口にしていた。食卓で醤油や漬物や佃煮などを入れる小皿のことである。和食器の中で最も重宝で、きわめて日常的なものである。それが「手塩」からきていると気づいたのは、しかし、ずっと後になってからだった。
民俗学者・神崎宣武氏の『図説 日本のうつわ』(河出書房新社)には小皿を「直径四寸(約12.1センチ)以下の皿」と定義してあり、
小皿は、別にテショウとかテショウザラともいう。これは「手塩」と書くべきもので、かつて掌を皿がわりにしてそこに塩を置き、食べものをつけて食べたことを示している。
と説明してある。また、
現在もっともよく使われている小皿は磁器で、その普及は18世紀になってからのこと。
とも書いてある。
やきもの屋で私が最も興味を持って見るのは酒器の類だが、小皿や、もっと小さい豆皿を見るのも楽しい。形はさまざまだが、私はやはり円いのが好きだ。直径が精々10センチほどの皿に染付、色絵などでいろいろに意匠が施してあって見飽きない。
九州陶磁文化館の柴田コレクションの中の小皿・豆皿はさすがに立派なものばかりで、品がある。洗練された意匠に、江戸時代の無名の職人の巧みな技と遊び心が感じられて、ため息が出る。
現代陶芸家の辻清明氏は江戸時代の豆皿を蒐(あつ)められていると、ある雑誌で紹介していた。
ほんとうに、これほどバラエティに富んだ小さな器は他に見られぬと思う。
と氏は書いておられた。
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