トップ >> 筒井ガンコ堂のガンコスタイル >> vol12 伝統が挑戦する(2002年)
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染付が好き
▲畑萬陶苑「チャイナッコシリーズ」の人形と、柿右衛門窯の新作

某日。伊万里の大川内山を訪ねた。
訪ねるたびに思うのだが、ここほど「やきものの里」を実感させてくれる土地は、他に全国どこにもないのではないか。その規模と密度の程のよさ。いわば「やきもの尽くし」。三方を山で囲まれたかつての藩窯の地に、現在も三十数軒の窯元が火を燃やし続けて、現代の「伊万里焼」をつくっている。一帯はきれいに整備され、数時間ゆっくり散策できるようになっている。

 その代表的窯元の畑萬陶苑をのぞいた。ここの展示室を見るのはいつも楽しい。昔ながらの独特の藍の、山水や根引きの松など伝統的意匠の染付の酒器や食器もよろしいが、新しい試みを見せる現代伊万里焼の商品が新鮮で素敵なのだ。老舗ながら器形や文様に創意がうかがえて好ましい。伝統に革新が上手くつながっている。
 この日、棚で見て最も楽しかった
▲畑萬陶苑の器
のは、新製品のチャイナッコシリーズだ。色遣いは伝統に従いながらデザインが斬新で生き生きしている。昔の中国人を描いているが、動きがあり、ひょうきんな表情ながら上品にまとまっている。絵が達者で格を崩していない。焼きも丁寧である。それでいて比較的安価に抑えてあった。
▲柿右衛門窯の器
 某々日。柿右衛門窯を訪ねた。「新作展」の案内状が届いたのだった。そのコーナーに並んだ食器、酒器はさすがに華麗で凛(りん)としていた。「新作」のゆえんを聞いてみると、これまで濁手(にごしで)の作品にしか用いてなかった十四代得意のモチーフ、なでしこ、山つつじ、野いちごなどの野の草花のデザインを食器に積極的に採り入れているとのこと。また、昔使って、長らく使わなかった型を復元したとも。値段は安くなかったが、その新しい試みには感心させられた。

 柿右衛門窯といい畑萬陶苑といい、佐賀の磁器を代表する大どころの窯元が意欲的に現代に取り組んでいる姿を垣間見ることができ、佐賀のやきものの底力を知り、心強く思ったのだった。

※文章中の作品の写真はクリックする拡大してご覧になれます。
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photo ■筒井ガンコ堂
本名:筒井泰彦(つつい・やすひこ)
1944年佐賀県生まれ
平凡社にて雑誌「太陽」編集に従事。
佐賀新聞社で文化部長、論説委員など歴任。
元「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著)、
「必冊 池波正太郎」等
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