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第14代酒井田柿右衛門さんが重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されることになった。すでに30年前、柿右衛門窯が重要無形文化財「柿右衛門(濁手<にごしで>)」で総合認定を受けているから二重の認定になる。すなわち今回は当代個人の技芸が認定されるわけで、新聞によると、「野山に咲く草花の徹底した写生を基にした絵画調とでもいう華麗な作風」が評価されたようだ。
「柿右衛門」は言うまでもなく世界中に知られた日本を代表する磁器のブランドで、350年の歴史を持っている。その特徴は1.端正な器形、2.濁手(米の研ぎ汁のような乳白色の素地―注※)、3.赤をはじめとする豊かな色彩、4.余白を生かしたデザイン、といえよう。
濁手は先々代と先代の柿右衛門が、江戸中期以後長らく絶えていたのを、第二次大戦後に復活したと聞いた。有田泉山の陶土のほか二ヵ所の陶土を混ぜてつくるというが、土クセが悪く、成形以下の作業が随分と難しいらしい。
また赤は「柿右衛門」を象徴する色だが、酸化鉄の粉を水に溶かして摺(す)って赤絵の具をつくるには、気の遠くなるような根気のいる作業が必要だとか。
そういった精妙な技術の集積が現在に伝わる柿右衛門様式で、当代がいわば総指揮者を務め、数十名の職人さんが、ろくろ、型打ち、絵付け、窯焚(かまた)きとパーツを専門的に担って「柿右衛門」がつくられているのである。
今回の当代の人間国宝認定は、その上で、一人の色絵磁器作家として、卓越した独自の作品をつくることを期待したものなのだ。十二代、十三代の薫陶をみっちりと受け、技芸の研さんも怠らず、国際的な見聞も幅広く、心身ともに脂の乗った時期にある柿右衛門さんならきっとその期待にこたえることだろうと、新聞のインタビュー記事を読みながら確信したのだった。
(注※十三代柿右衛門の聞き書き『赤絵有情』に「柿右衛門窯が濁手の赤絵ばかり作っているわけではありません。……今でも濁手赤絵よりも普通の赤絵の方が多いですね。」とある)
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■関連リンク 柴田氏追悼特集・酒井田柿右衛門氏インタビュー
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