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VOL.29 濁 手(にごしで) | |
1670〜90年代にかけて、有田南川原山(なんがわらやま)で作られた作品のなかに純白な美しい白磁に、余白をたっぷりととって、「粟に鶉」、「竹に虎」など一定の題材が優美に描かれた作品がある。その色絵磁器に用いられる白磁は「濁手」と呼ばれている。「濁(にごし)」は佐賀の方言で米の研ぎ汁のことをいう。 「濁手(にごしで)」は米の研ぎ汁のようにやわらかみのあるミルキーホワイトの色をした白磁素地のことである。一般の有田焼の白磁素地は、やや青みを帯びている。それに比べて、「濁手」は青みがなく、純白である。 しかし、江戸時代の後半には濁手素地づくりは途絶えていた。その復元が昭和28年(1953)、12代酒井田柿右衛門(1878〜1963)と13代酒井田柿右衛門(1906〜1982)の尽力によって成功した。 酒井田家に伝わる『土合帳(元禄三年二月)』を参考にして、今日では「濁手」の原料は有田町内にある泉山、白川、岩谷川内の3種の陶石が6:3:1の割合で調合されている。釉薬はごく薄くかけられ、下絵付けの染付はされない。 各陶石の焼成時における収縮率の違いによって、破損が多く、歩留まりがわるい。皿のような平たい作品で五割ほど、壺などの立体物だと二割程だという。それが濁手の途絶えた原因であった。 「柿右衛門製陶技術保存会」は昭和46年4月、重要無形文化財「柿右衛門(濁手)」の保持団体として認定され、13代の没後は当代柿右衛門がその事業を継承し、今日に至っている。 (吉永陽三)
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