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竹林やカシに覆われた小高い山のふもと。広大な敷地内に、柿右衛門窯の工房やヨシぶきの家屋が並び、玄関付近の池にはニシキゴイが泳ぐ。そよぐ風に秋の気配が漂う庭園は、カキの葉が色づきはじめ日本の美の情景を見せる。 「伝統ある有田では一人の作家という前に職人であるべき。伝統を踏まえながら自分の色を出していきたい」。江戸時代から連綿と続く名門「柿右衛門窯」の14代柿右衛門さん。一言一言に、窯主としての使命感がにじむ。 「柿右衛門」という言葉は色絵磁器の代名詞ともいえる存在。乳白色の生地と明るく鮮やかな上絵付けが特徴。余白を生かした華麗で優美な色絵の世界だ。14代を襲名して18年。「新しい食器、デザインはそこそこやってきたが、美術品よりも日常使う器の方が難しい」という。時代のニーズを踏まえた日常食器づくりを心がけ、最近はイチゴやエノコログサを見つけては絵筆を走らせる。 一年に5、6回ほど雄大な自然に囲まれた阿蘇に出かける。世俗的な世界を逃れ自分の内面を見つめるため、キャンピングカーを駆っての一人旅。一週間ほどの滞在。「ふだんは目にとまらなかったものが見えてくる。はいつくばるような感じでふらふらになりながら、心に感じるものを写し取っていく」。自分を追い込んで、新鮮に映る野のタデやコスモスを描く。 様式の継承と新たな日本の美の追究は名門窯の当主の宿命だ。「やはり余白を残すことが大事。絵のバランスとともに白の美しさを損なわないように」。山や草花をモチーフにしながらも14代としての独自色を出していく。 一子相伝といわれる絵の具の調合が課題だという。「化学顔料や安定した釉薬(ゆうやく)は手に入りやすいが、色に深みがなく素朴な美しさが出ない。戦後、業者が減り、質の良い天然のものが少なくなった」と嘆く。 大英博物館で開催される県陶芸協会展が間近に迫った。「佐賀の現代の陶芸文化を世界に発信したい」。県陶芸協会会長を務める柿右衛門さんはそう意気込みを語る。 柿右衛門展を海外で開く度に「有田はどうなっているの。もう焼き物は作っていないのか」と海外作家からよく質問を受けたという。同展では作家62人の優品124を展示。「今の有田の作品をきちんと見せたかった。レベルの高い作品がそろい、中国にないものがあるのでインパクトが強いはず」と自信をのぞかせる。 新世紀を間近に控え、世界のひのき舞台に立つ佐賀の陶磁器。現代の創造性を盛り込んだ個性豊かな作品の数々は、江戸期の海外輸出から三百年余りの時空を超えて、世界が注目する大英博物館に、佐賀の陶芸文化の足跡を記す。 |
■柿右衛門窯(かきえもんがま) 西松浦郡有田町西部丁352 JR有田駅から車で7分。柿右衛門入口バス停から徒歩で10分。 展示場と古陶磁参考館あり。駐車場約30台収容。 電話0955(43)2267 |
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