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やきものの技法VOL.26 イッチン(いっちん)


 泥漿や釉薬によって盛り上げの線文を表す装飾技法。時にはその道具を指すこともある。イッチンの名称は、友禅染などで用いる一珍(一陳)糊に由来するという説がある。しかし糊の施し方からすると、やきものの手法との共通性は見い出しがたい。むしろ染色でいう筒引き(筒描き)の技法と同類であるため、イッチンのことをやきものの分野でも筒描きと称している。
 
 イッチンの技法は、イッチン盛り、イッチン掛けとも表される。また筒描きのほか、小石原焼(福岡県)や小鹿田焼(大分県)ではポンガキと呼んでいる。古唐津においては黒釉に白い長石質の釉薬で装飾したものを素麺手と呼ぶことがある。さらに18世紀後半から19世紀前半にかけて、無釉地に黒釉と白い長石釉を波状にかけた萩焼(山口県)の碗が作られているが、これを地元ではピラ掛けと称している。ササラで振りかける技法である。

 中国のものでは明時代の法花と呼ばれるやきものに、イッチンの技法が見られる。器胎に盛り上げの線文を描き、区画内に青や紫色の低火度釉を施した作品である。19世紀の偕楽園焼(和歌山県)などに法花の写しがある。西洋ではイッチンの技法によるやきものをスリップウェアと呼ぶ。17世紀から18世紀のイギリスのものには、黄土色と黒褐色の泥漿によるイッチン文様が描かれている。

 イッチンの道具は渋紙製の円錐形の絞り出し式のものや、竹筒に注口をつけたものがあり、近年ではスポイトが用いられている。釉薬と泥漿では道具も異なると考えられるが、用いた道具や技法の検証が難しいため、盛り上げ線文様の装飾は釉薬の場合も泥漿もイッチンと総称している。


(鈴田由紀夫)
佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No36号より(平成12年発行)

■写真…飴釉櫛目波頭文瓶
C佐賀県立九州陶磁文化館所蔵
■編集・著作…佐賀県立九州陶磁文化館
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