― 奥田さんは京王プラザホテルにて、柴田コレクションの展示を含めて、毎年「大有田ぷらざ展」をプロデュースなさっているとお聞きしましたが、その経緯からお話しいただけますか。
私の持論として、「ホテルロビーは美術館」と思っています。ホテルというとどうしても機能的には西洋的なおもてなししかできないところです。しかし私はそこに日本的なおもてなしができないかといろいろと考えてきました。もともと私も古伊万里が好きでしたので、ホテルのロビーをギャラリーに見立てて古伊万里や有田焼を並べ、お客様におもてなしをしようと思い、24年前から毎年「大有田ぷらざ展(第20回までは大有田ぷらざ市)」を企画してきました。
柴田先生とは、コレクションを九陶に寄贈された時点から知遇を得ることができました。柴田先生はインターナショナルな古伊万里の収集家としても、研究者としても第一人者であり、亡くなった後でも右に出る人はいないと思っています。柴田先生は古伊万里はやきものの美術の最高峰といわれていましたが、私もそう思います。
ご存知のとおり、器と食文化とは非常に深い関係にあります。そしてお客様のおもてなしをするホテルとも関係が深いものです。そこで、東京の人にも海外から来られたお客様にも古伊万里をお見せしたいという想いから、大有田ぷらざ展で柴田コレクションの展示をさせてもらいたいとお願いしました。その時、柴田先生には大変ご尽力いただいて実現することができました。この時業界ではホテルで古伊万里の展示をするということ、尚且つそれが公的美術館の所蔵品を展示するということで、例のないことと大変な評判でした。そして回を重ねるごとに、おかげさまで柴田コレクションの評価も高まり、ホテルのイメージアップもさせていただきました。
― この時同時に柴田コレクションのレプリカも展示されていますが、この実現にも奥田さんは関係なさったとお聞きしましたが。
はい、実は私がレプリカを作りたいと言い出したのです。最初は柴田先生も難しいでしょうと言われましたし、佐賀県と九陶の返事もNOでした。そこで大有田焼振興協同組合の理事長(岩永参議院議員)にお願いし、柴田先生にも再度お願いして、古伊万里の技術を今に伝え保存することを名目に、県や九陶を説得してもらいました。レプリカが実際に出来あがるまでは柴田先生にも、製作された窯元の有志の方々にも大変苦労していただき、第19回大有田ぷらざ市(平成11年)に試作品29点を、第20回(平成12年)には完成品として26点を商品として、本物と一緒に展示し、販売させていただきました。またその時、当ホテル直営の民家を模した日本食レストラン「あしび」で、レプリカの器に懐石料理を盛ってお出ししました。これも大好評で、その後、多数の常連のお客様が毎年レプリカを買い足していただいています。
古伊万里は目で見て愛でることも大事ですが、実際に料理を盛って使ってみて初めてわかる価値があります。柴田先生からは、生活の中で様々な視点で見なければならない、ということを教えていただきました。
それと本物と同等のレプリカができたのは、有田だからこそできたのではないでしょうか。有田には技術と文化があり、芸術があり、知的財産があります。そして柴田コレクションという不変の財産があります。先生が納得されたものは少なかったと聞いていますが、有田の陶工たちが複製に挑んだということは、次の有田焼の商品開発をしていく自信になったんではないでしょうか。
― 柴田さんはレプリカ製作にあたる際に、候補はどういうふうにお選びになったんでしょうか、それとレプリカの品質基準はどうされたのでしょうか。
最初は、窯元にやる気を持ってもらうために、窯元自身に候補をだしてもらい、その後先生の方で時代や技術などを考慮に入れて選ばれたそうですよ。選ばれたものは見事というほかないですよ。それでも料理を作り盛ってみると、足りないものが出てきて3点を追加されました。
レプリカの品質基準としては、当時の資料がここにありますが、全体印象や器形、口縁仕上、釉調、呉須発色、線描、濃み、顔料発色など11項目にわたってチェックされ、全てに合格したものだけを柴田コレクションレプリカとして出されました。
― 奥田さんは今まで「大有田ぷらざ展」で様々な商品開発をなさったそうですが、思い出に残るものはどのようなものですか。
第4回の時に「美風絵(ビュッフェ)会席」というテーマで和食の立食パーティーを企画しました。これは全国のホテル関係者に話題となり、噂を聞かれた総料理長クラスの人が大勢いらっしゃいました。この時開発した器が有田の窯元に注文が殺到したようですよ。
それから「お茶漬けピカイチ」というお茶漬けセットを出しました。急須に湯飲み、小皿などをセットで作って、佐賀のお米と漬物、有明海の珍味と嬉野のお茶でもてなしました。この時には当時の井本知事にもお出でいただき、大変喜んでいただきました。
そして今年と来年の2年がかりで、集大成という意味の新商品として、「新快席宣言」と銘打ち、こだわって佐賀ブランドとスローフードを紹介していきます。
実は今の人たちはこの器と食文化を忘れてしまっているんですよ。ファーストフードだけで済ませる傾向が強い時だからこそ、いい器で食事をしてほしいですね。何気なく使ってはいるけど、それは名もなき職人がつくった古伊万里のいい器だったいうことがいいんですよ。これも柴田先生から教わったことです。故人のご冥福をお祈りいたします。合掌。
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