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森田茂文氏 森田茂文氏
■森田茂文氏■Profile
有限会社文翔窯 代表取締役

― 森田さんが最初に柴田さんとお会いになったのはいつでしたか。

 実は、私が最初に親しくお付き合いをさせていただいたのは奥様でした。それは12年前の陶交会展に、独立して初めて作品を出した時でした。家で仕事をしている時に陶交会の役員から、
「すぐ、九陶に来い!」
という電話がかかってきました。手には土がいっぱい付いていたので、渋っていると、
「いいから、来い!」
と、有無を言わさない電話でした。仕方なく九陶へ行ってみると、そこに奥様がいらっしゃって、私が作った磁器のサイドテーブルを気に入っていただいということを聞きました。
 その後、再び奥様とお会いしたときに、たまたま奥様がある所で磁器のボールペンをご覧になったというお話をされたので、その特徴を聞くと私が作ったものだとわかり、奥様は「やっぱり、あなただったのね!」と喜ばれました。それから、奥様と親しくお付き合いさせていただきました。

― 奥様の印象はいかがでしたか。

森田茂文氏 一言で言うと「変わっている!」でした。有田のことをいろいろとお聞きになるんですが、分からないことがあると、「なぜ?」と聞かれるんですよ。それはこうこうなんですよ、とお答えすると、「どうして?」と聞き返されました。そうすると、こちらも「?」と考え込まされることが度々ありましたね。時には自分でも気づかなかったことに、目覚めさせられたこともありました。そういうふうに、奥様は疑問に思われたことは何でも聞かれましたし、はっきりものをおっしゃる方です。
こういうことも言われましたね。
「どうして佐賀空港を使わないの?」
「えっ? 福岡や長崎の空港まで行くよりも時間がかかるんですよ」
「早く出ればいいじゃないの」
この時は、何も言えませんでした。

― 柴田さんとはどのようにしてお知り合いになられたのですか。

 奥様の傍にいつも柴田先生がいらっしゃいましたので、自然とお話しをするようになりました。でも、後で奥様からお聞きしたのですが、ご主人からは「あまり、一メーカーと親しくならないように」と言われたそうです。それは有田の中で波風を立てないようにという柴田先生のご配慮だったそうです。

― 柴田さんとの思い出で、印象に残っておられることはどんなことでしょうか。

森田茂文氏 「作りっぱなしは止めなさい。知ってモノづくりをしなさい」ということを厳しく指導されました。自信を持って作っているなら、作った後にどういう人が買って、どういう使われ方をしているか、またその器がいつごろ壊れたのかを知らなければいけないと言われました。その時は困りましたね。作った後に産地商社があり、その次に消費地問屋があって、そして小売があるわけですから、情報を得るのは難しかったわけです。ところが、今では直接お客様とお話しする機会が増え、徐々にどう使われているかという情報を得ることができるようになりましたね。
 それと、「温故知新」「産地表示」を何度も何度もおっしゃっていました。江戸期の有田焼のことを知ること、また産地表示の基準となる条件について、できるできないは別として、知ると知らないでは大きな違いが出てくるということを厳しくおっしゃっていました。有田焼そして有田のことをこよなく愛されていましたから、将来の有田焼を想って、私利私欲なく厳しくおっしゃっていたと思いますよ。
また、有田陶器市のことも心配されていて、「もっと見せ方と、売り方を考えねば」ともおっしゃっていました。
 とにかく、コレクションや研究と同様にほかのことでも、全てご自分で動いて、ご自分で調べられていました。有田が産業の町として、どうしなければならないか常に考えられておられました。そのためにご自分が集められたデータを活かせないかと、終始こころを砕かれていました。

― 柴田さんはコレクターの域を超えた方だった、というのがよく分かりましたが、お忙しい方でしたのに、驚きますね。

森田茂文氏 いや、蒐集も古陶磁だけでなく、レコードやお酒もありましたし、お若いころは外車や根付など他にもあったみたいです。知識も料理や温泉など多岐にわたってお詳しかったですよ。その他にも、幾つかの県のアドバイザーもされていたり、政財界のネットワークもお持ちでしたから、本当に超人的でした。

― 最後に、森田さんが柴田さんから受けられた影響といいますか財産はなんでしょうか。

 先入観を打破するということ。モノの見方ですね。それを教えられました。お亡くなりになる前に、14の窯元でプロジェクトAritaを立ち上げて、究極のラーメン鉢にチャレンジしたことをご報告したときには、本当に喜んでいただきました。有田を愛して、有田のために何かをしなければいけない、それが先生に対する恩返しだと思っています。


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