16世紀にイランで誕生したサファヴィー朝(1501-1736)は、イル・ハーン朝やティームール朝など異民族支配にあまんじてきたイランにとって、久々のペルシア人の王朝でした。特にシャー・アッバース1世の時代(1588-1629)はその最盛期にあたり、首都イスファハーンは「世界の半分」とも称される繁栄を享受しました。当時イランを訪れたヨーロッパ人の記録は、美しい陶器がイランで製作されていたことを伝えています。またこの時代は、ヨーロッパ各国が東インド会社を設立し、盛んに東洋の物品をヨーロッパに輸入した時代でもありました。特に日本と関係が深いのはオランダ東インド会社でした。そしてオランダ東インド会社が扱った商品のなかには、中国で製作された陶磁器も多数含まれていたのです。しかし17世紀の中頃になると中国の明朝が満州族の清朝によって滅ぼされ、その戦火は中国の陶磁器生産の中心地、景徳鎮にまでおよびました。商品の供給を絶たれたオランダ東インド会社は、長い陶器生産の歴史があるイランや磁器の生産が始まった日本で代わりの商品を仕入れようとしたのです。
本展は、2006年から始まったペルシア陶器をテーマとしたシリーズ展の第3回目の展覧会です。16世紀から18世紀のペルシア陶器や出光美術館所蔵の中国磁器や日本の肥前磁器など約130点の展示品をとおして、17世紀にインド洋や東シナ海で繰り広げられた中国・日本・イランの陶磁器貿易の歴史をオランダ東インド会社の発注書や台帳などの記録で再現したT.フォルカーの研究をもとに紹介します。中国・日本そしてイランの陶磁器が語るダイナミックな貿易の物語をお楽しみください。
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