テーマ展2・新春展「干支 酉の文様」
<会期:平成16年16年12月15日〜平成17年1月16日>
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平成16年12月18日 |
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こちら九州は連日12月とは思えない陽気が続いています。今回は年末年始の気分にぴったりの展覧会をご紹介します。佐賀県立九州陶磁文化館で開催の新春展「干支 酉の文様」。平成17年の干支である「酉」にちなみ、様々な鳥が描かれた古陶磁を紹介しています。今回は12月18日に開催された学芸員・宮原さんの解説によるギャラリートークに参加してきました。師走のあわただしい時期にもかかわらず、若い女性からお年寄りまでたくさんの陶磁器ファンが集まり、楽しい解説を聞きながら鑑賞しました。
会場に入ると、館蔵資料及び柴田夫妻コレクションからピックアップされた作品57件71点が並び、さながら陶磁器の鳥類博物館のようでもあります。鶏・孔雀・雉・尾長・鶺鴒・鶴・鳳凰・雁・鷺・鶯・カワセミ・鴛鴦・みみずく・鶉・千鳥・鷹・雀など鳥の種類別に紹介され、また各鳥を模した折り紙も一緒に展示されており、子供も楽しめる内容となっています。そしてこの展示室内にはなんと211羽の鳥がいるのです!一作品につき、40羽近くも絵付けされたものもあるそうで、それを一羽一羽、学芸員さんで数えたのだそう。
まずは、干支「酉」のシンボル的存在「鶏」からご紹介しましょう。鶏は古来中国において五つの徳を備えた鳥として論語などにも登場します。五つの徳とは「文・武・勇・仁・信」のことだそうで、「文」・頭に冠の様子が役人としての出世を意味。「武」・足に爪を持つ様子が武士の意味。「勇」・敵と戦う様子が勇ましい。「仁」・えさを見つけたら仲間に知らせるという仁義深さ。「信」・時を忘れず必ず鳴く信ずるに足る者。こういった言い伝えから吉祥の鳥としても鶏は親しまれています。
「鶏」コーナーで目をひくのは「色絵花鳥文瓶(1690〜1730年代)」という作品です。器面全体には、赤紫がかった濃い赤の絵具、また口と底には手の込んだ金属細工。そして胴部に小さな鶏が彫刻装飾として施された愛らしい作品です。これはヨーロッパの輸出用として肥前地区で制作されたもので、濃い赤絵具の部分は、ヨーロッパにてエナメル質の絵具で加彩されたもの。また加彩時に絵具がはがれたのかそれともはみ出してしまったのか、それを隠すように花文様の輪郭を金の絵具で縁取りもされています。指先ほどの小さな鶏の人形には、丁寧に色絵が施され、足元に黄色の小さな粒があります。「ひよこかしら?」・「木の実をついばんでるのでは?」と皆さん楽しく鑑賞。
ところで皆さん、日本の鳥「国鳥」として指定されているものは何かご存知ですか?答えは「雉(きじ)」。1947年に日本鳥学会において選定されました。身近なところでは、前の一万円札の裏面に雉が描かれています。ちなみに今秋登場した新しい一万円札の裏面には鳳凰像が描かれています。雉を模した作品も愛らしいものが展示されていました。「瑠璃釉鳥形合子(1630〜40年代)」、てのひらサイズの小さな合子です。合子(ごうす)とは、小さな蓋物のことで、香料などを入れて飾りとして楽しむものだそう。その小さな姿と、きょとんとした愛嬌のある表情で「かわいらしい」と女性に人気があった作品のひとつでした。
さて今回ピックアップされた鳥のなかで、一番登場した数が多かったのは「鶴」だそう。鶴は長寿のシンボルとしても有名ですが、松と組み合わせてデザインされるのが定番だとか。実は鶴が松の木にとまることはないそうですが、常緑で生命感あふれる松も長寿の意味を表わすことからセットで描かれているのではと推測されるそうです。「色絵松鶴文小皿(1650〜60年代)」もそんな鶴と松のモチーフが描かれたひとつ。器のカーブを生かしそのまま鶴の姿をデザインした斬新な構成で、緑色の部分に黒っぽい輪郭で松が描かれています。この時代の後に盛期をむかえる鍋島焼を彷彿とさせる意匠でもあります。
今回登場していた鳥の中で、ひとつだけ想像上の動物がいました。それは「鳳凰(ほうおう)」。「鳳凰」は想像上の動物とはいえ、聖獣(吉祥の鳥)として中国でも日本でも様々な意匠に描かれ親しまれてきました。鳳凰は麒麟、亀、龍とともに四霊とよばれ、喜ばしいことがあると出現すると古代中国で考えられていたそう。また中国では、龍を皇帝のシンボル、鳳凰は皇后のシンボルとされたのだとか。華やかな印象の強い鳳凰ですが、どんな姿をしているのかというと「首は蛇・背は亀・羽毛を五色で」表現されています。また鳳凰は桐の木にとまるという言い伝えもあることから、鳳凰&桐の組み合わせのデザインも定番です。
鳳凰のコーナーでは資料的に珍しい作品が対になって展示。「白磁陽刻鳳凰文変形皿(1650〜60年代)」と「色絵鳳凰文変形小皿(1655〜60年代)」。実はこの二作品、よく見ると同じデザインでほぼ同じサイズ。若干厚みの違いがあるそうですが、ほぼ同じ地区で制作されていたものではと考えられています。白磁と、色絵の2タイプの商品だったのか、それとも白磁は絵付け前で制作過程途中のものだったのか?さらにこの二作品、色絵は柴田夫妻から寄贈されたコレクションのひとつで、白磁は小橋一朗氏から寄贈されたものとのことで、まったく別のルートで九州陶磁文化館で巡り合わせたというドラマもあるのだとか。
展示作品の中には、文様としては類例の少ない鳥「カワセミ」・「みみずく」も各1点ずつ紹介されていました。「カワセミ」が描かれた作品は「染付翡翠流水文嗽碗(1740〜90年代)」。嗽碗(うがいわん)とは、江戸時代の既婚女性のお化粧・お歯黒を施したり、うがいをするための碗。ちょうど飯碗を平たくしたような形をしています。作品の見込みには、枝を加えて飛んでいくカワセミが描かれていますが、ちょっと漫画チックでユーモラスな表情。この絵を見ながらうがいをしたら、なんだか心和みそうです。
「みみずく」が描かれているのは「染付木莵文皿(1690〜1710年)」。丸い耳にふさふさの毛。ぬいぐるみのようにも見えるふっくらとしたみみずくです。松の木が見込み全体を横断するように描かれ、木の幹が流水のようにも見える優れた構図の作品です。
この他にも、夫婦円満のシンボルでもある「鴛鴦」や、その姿そのものをデザインとして描かれるケースが多い「千鳥」、出世のシンボルでもある「鷺」などを鑑賞することができます。技法や陶磁器の歴史に関係なく、身近な「鳥」を用いた文様の多様さを楽しむことができるので、子供から大人まで楽しめる展示構成となっています。また九州陶磁文化館では平成17年元旦から閲覧できますので、年始のおでかけにいかがでしょうか。
■お知らせ
佐賀県立九州陶磁文化館の年末の休館日は12/27・12/29〜12/31となっています。また年始は元旦から開館し、1/16まで休館はありません。
新春展「干支 酉の文様」を見終えて館の正面玄関でも鳥の絵を発見しました!おでかけの際は、写真をヒントにどこにあるのか捜してみてくださいね。
●佐賀県立九州陶磁文化館
【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日・12/29〜12/31
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