深川忠次欧州への道百十年展
<会期:平成16年4月23日〜5月5日>
|
平成16年4月23日 |
|
全国最大級の陶器市「有田陶器市」を目前に、有田やその周辺では陶器市の準備で沸きたっています。そんな中、西有田町にある深川製磁「チャイナ・オン・ザ・パーク忠治館」へ「深川忠次欧州への道百十年展」を取材に出かけてきました。深川製磁は明治時代から続く、有田焼の老舗メーカー。今年創立110年を記念してこの展覧会が開催されています。
この展覧会では「19世紀末、ヨーロッパを魅了した陶磁意匠」をテーマに、深川家秘蔵のコレクションが公開され、初日から多くのファンで賑わっていました。深川忠次氏とは、深川製磁の創立者。今回、氏が西欧に向けてつくりだした作品や、意匠絵、またその当時の貿易に関するメモなど50点程が展示。明治期の有田陶芸の軌跡や、その当時のヨーロッパにおけるシノアズリ(東洋趣味)をうかがえる構成となっています。
明治時代、各国で万国博覧会が開催され日本工芸のひとつとして出展されていた有田焼は好評を得ていました。深川忠次氏は新鮮な文様を作り出すにあたり、自然の写生から生まれる生き生きとした表現を意匠に取り入れたといいます。しかしおりしも西欧ではシノアズリが流行し、またアールヌーボー運動がさかんだったことから、装飾過多である文様の需要が高かったのだそう。しかしこういった豪華絢爛な作品を前にすると技術的な精緻さだけではなく、職人の文様にかけたなみなみならぬ思いを感じます。
そんな展示作品の中でもひときわ大きく、また緻密に描かれた文様が目をひく作品をご紹介しましょう。「染付牡丹唐草大鉢」明治中期頃の作品です。パーティーなどで用いられるパンチボールと思われる器で、大人でも二人がかりで抱えるくらいの大きさです。器の外側には緻密な唐草文様が全面に配されエキゾチックな様相です。器の内側には、木々や梅などの花がまるでパノラマのように描かれています。
大きな作品も目をひきますが、ちょっと変った形の作品もご紹介しましょう。丸い円盤状の中央に穴があいた「染付桐鳳凰文天上飾」という明治後期の作品。大きな平鉢に穴が空いているように見えますが、実はこれ、シャンデリアの飾りとしてつくられたもの。天井にとりつけ、中央の穴からシャンデリアをつるすという具合です。おそらく特注品としてつくられたものとのことですが、器の全面に描かれた羽を広げた鳳凰が天井で舞う姿を見てみたくなりました。
展示作品の中には主に植物文様を描いたものが多くありましたが、今回特別に公開という朝顔の文様が描かれた器が2点あります。「染錦つる朝顔大鉢」と「染付朝顔ディナーセット」です。「朝顔」というと日本的なイメージがありますが、ヨーロッパでは日本でいう松竹梅のようにめでたい植物として好まれていたのだとか。
「染錦つる朝顔大鉢」は文様の輪郭線が金彩で施されている豪華な作品ですが、朝顔そのものは淡い色調で表現され、爽やかな空気、朝顔のなよなよとしたかわいらしさが伝わってくる絵付けとなっています。大鉢に水をはり、手洗い鉢として使用されたものとのこと。
「染付朝顔ディナーセット」はイギリスに輸出されたもので、後にオークションにて買い戻された里帰り品です。その当時の一級品はほとんど輸出されており、製造元である深川製磁にもそう多くは残っていないのだとか。焼成を仕損じたいわゆる不良品の器も展示されていましたが、こういった不良品は窯に残され、絵付けの見本用として使われたのだそうです。
こういった豪華絢爛な作品と並び注目される展示として、当時の意匠絵図も今回初めて公開されています。皿や壺などのシルエットをかたどり、そこに精密な文様案が美しい顔料で描かれています。こういった意匠絵図は実際に絵付け職人が描いたそうで、見本として海外へ持っていき注文を受ける際にカタログ的な使い方をしていたのです。丁寧に書き込まれた絵図はまるで日本画のようで、ひとつの作品、美しいデザイン画として楽しめ、陶磁器ファンでなくとも興味をそそられます。またこの意匠絵図を参考にしたと思われる同じ文様パターンの作品も、同時に展示されており、平面・立体から文様の美しさを見ることができます。
このほかにも会場には大きな作品だけではなく、欧州向けにつくられた食器や、貿易の際に書かれた商品構成のメモ、運搬用の木箱なども展示され、明治期の有田の活気をうかがうことができます。この展示は陶器市最終日5月5日までとなっています。欧州で一大旋風を巻き起こした明治期の日本の技と美的感覚、そして工芸職人の心意気に触れてみませんか?
■お知らせ
有田陶器市期間中(4/29〜5/5)、チャイナ・オン・ザ・パーク内でも陶器市をお楽しみいただけます。深川製磁工場直営ショップや特別セットの販売、また無料休憩所などもあります。
●チャイナ・オン・ザ・パーク
【所在地】 佐賀県西松浦郡西有田町原明
【電 話】0955-46-3900
|
|
|