新収蔵品展・2「柴田夫妻コレクション展」
<会期:平成15年11月28日〜12月16日>
|
平成15年11月28日 |
|
佐賀県立九州陶磁文化館は、平成2年から15年にかけて柴田明彦・祐子御夫妻より寄贈された、1万点を超える膨大な数の古伊万里資料を収蔵していることで知られています。この資料「柴田夫妻コレクション」は、単なる美術品ではなく、江戸時代の有田磁器を体系的に蒐集、歴史的な変遷や年代の特徴などがわかる貴重な学術資料としても注目されています。これまで8回の企画展にてこれらの資料が公開され、また平成15年5月にはコレクション全体を通覧できる「総目録」も刊行されました。
今回の新収蔵品展では、この総目録に掲載されているもののこれまでの企画展で紹介されなかった作品や、コレクション内容の充実のため、あたらに追加寄贈されたものを紹介するものです。初日の11月28日には、開会式及び展示解説会が執り行われ、関係者やたくさんの古伊万里ファンで賑わいました。開会に先立ち、柴田御夫妻よりご挨拶がありました。「私は事実を残したいと思い、そのためにはやきものを通して生活文化が伝わるコレクションでなければと、江戸時代の有田磁器を体系的に蒐集してきました。コレクションは集めた物が主役であり、そこから見えてくるものに価値があるのです。」という言葉が印象的でした。
会場には、江戸から明治・大正時代の有田磁器294件701点の作品が、「1.有田磁器誕生と発展」・「2.古伊万里・絢爛豪華な世界」・「3.古伊万里・大衆文化時代の精華」・「4.近代化の中における伝統的な有田焼」と時代順に4つのブースに分かれて展示されています。時代順に見ていくことで、技術の変遷や、当時の流行などを知ることができます。展示解説会では九州陶磁文化館の大橋副館長より、詳しい作品の解説があり、その中でもちょっと変ったおもしろい文様や意匠の作品を、今回ご紹介していきましょう。
ユーモラスな表情と柔らかいタッチの文様で注目を集めていたのは「色絵布袋文変型皿(1710〜50年代)」という作品。これは通常の磁器の制作工程とは違い、本焼きをせずいわゆる楽焼風に仕上がった作品です。布袋の体全体は陽刻で立体的に表現され、また顔の部分は濃い色ではっきりと描かれています。磁器とは違うやわらかな質感だからでしょうか、布袋のゆったりとした体つきや表情が一層柔和に見えてきます。
遊び心が感じられる「なぞなぞ」がそのまま文様になった作品「染付花茗荷(はなみょうが)文蓋付鉢(1800〜40年代)」もあります。これは家紋である茗荷(みょうが)を描いていますが、これは冥加(みょうが)に通じているといいます。また作品を良く見ると、茗荷の隣には武士の兜を表現した白抜きの鍬形模様があります。
この組み合わせから「身の恥を顕す錆刀、人手に渡さぬ武士の冥加」を意味したものなのだそう。こういったものを判じ物(言葉遊び・謎解き)というそうですが、当時の人の洒落た感覚をうかがいしることができます。
また物語そのものを文様にした「染付象唐子文輪花鉢(1800〜40年代)」という作品もありました。これは「二十四孝」という儒教の教えを説いた、中国に伝わる親孝行話のひとつをあらわしたものです。親孝行の大舜(たいしゅん)を助けて、象が田を耕し、鳥が草むしりをしてくれるという場面を描いています。これ以外にも、「二十四孝」のほかの話を表した有田磁器もあるのだそうです。
次に文様だけではなく、器形にも遊び心を感じられる作品を紹介しましょう。「染付銹釉獅子牡丹菊文重箱・瓶(1840〜60年代)」は、離れた所から見ると、瓶(徳利)のように見えますが、近づいて見ると重箱になっているのがわかります。各段は独立しても使えるように、それぞれ高台も付いているのだそう。
江戸時代の中期以降、漆器の重箱を模して磁器でも重箱がつくられるようになったのだとか。それにしても、使って便利で見て楽しくという重箱ですよね。こんな重箱でお花見に出かけたら、さぞ楽しいことと思います。
中国の影響を受けた文様、日本的な意匠の多い中で、「これが江戸時代のものなの?」と驚くような非常に洗練された西欧風のような文様の作品もありました。「染付百合文八角蓋物(1804〜18・文化年間)」という作品で、展示解説会でも多くの人が注目していました。染付の濃い藍地に、白く百合の花が浮かびあがってくるような絵柄。百合はデザイン処理されながらも、細かい表現が施され、また軽やかにカーブする茎の先は唐草をアレンジした表現になっています。
まるでアールヌーボーのデザインを取り入れたような作品ですが、これはアール・ヌーボーが流行する以前の「文化年製(1804〜18)」の銘があるそうです。この銘は、藩の進物係を通じて、紀州徳川家より注文を受けた鉢に指示されて入れられた銘と同じであるとのこと。華やかな文様と、八角の蓋物といった堂々とした器形があいまってとても高貴な印象を受ける作品です。
文様ひとつを見ていっても、ただ単に美しいからだけではなく、当時の世相や流行を伝えてくれるものなのです。また文様を表現するにあたり、さまざまな技術革新やニーズに合わせた印刷技術の対応もあることが分かりました。今回私は文様を中心に見ていきましたが、技術的な変遷・歴史的な世相の背景などあらゆる角度から「柴田夫妻コレクション」は、私たちに文化の流れを教えてくれます。毎回、驚きと興味を引き起こしてくれるこのコレクションの展覧会。今回はほとんどが初出展のものとなっていますので、今までご来場されたことがある方も、ぜひまた観覧なさってはいかがでしょうか。
■お知らせ 佐賀県立九州陶磁文化館では、第5展示室にて常設展として柴田夫妻コレクションを約1000点ほど紹介しています。12月末に年に一度の展示作品の入れ替えが予定されています。年末年始のお休みに、古伊万里の世界に触れてみてはいかが?九州陶磁文化館の年末年始のお休み期間は12月28日〜1月1日となっております。
●佐賀県立九州陶磁文化館
【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日・12月28日〜1月1日
|
|
|