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新春展やきものに描かれた人々
<会期:平成15年1月2日〜平成15年1月13日>
平成15年1月1日

 明けましておめでとうございます。本年も楽しい情報をお届けして参ります!
さあ、今年の「行ってきました見てきました」の第一弾は、佐賀県立九州陶磁文化館で開催の新春展「やきものに描かれた人々」です。報道向けに一足早くおじゃましてきました。この展覧会は、肥前磁器(古伊万里)の文様として描かれたり、置物としてあらわされた人々の姿を紹介するものです。会場には48種(合計70点)の作品が並び、陶磁器作品だけではなく、その人物が登場する物語や時代背景などの説明も合わせて展示されていました。ざっと見渡しただけでも、子供からお年寄り、外国人とさまざまな人が文様として描かれているのがわかります。作品は「中国 仙人と貴人」・「日本 力士と美人」・「西洋 オランダ人と王様」の3コーナーに分かれて紹介されており、九州陶磁文化館・学芸員の藤原さんの解説を伺いながら鑑賞しました。「肥前古陶磁には、様々な人の姿が描かれています。ただ漠然と描かれているのではなく、物語や意味合いがあるのです。そういった背景を知って鑑賞すると、より一層文様の意味などを楽しく見ることができますよ」と藤原さん。

 まず会場の入口で出迎えてくれたのは、「色絵赤玉棕櫚文婦人像」と「色絵碁盤童子置物」という人形です。婦人像は白磁の良さがそのまま肌の白さに表現され、ちょっとなまめかしくもあり不気味にも感じられる美しさがあります。同じような婦人像が全国の美術館などに所蔵されているので、見覚えのある人も多いことでしょう。藤原さんによると、やはり型が違うことから、それらは少しずつ形が違ったり、絵付けの文様などが異なるそうです。江戸後期の俳人・河津由迪による古美術評論「睡余小録」には、この婦人像は吉野太夫徳子という女性をモデルとしたものと記載されているそうです。(吉野太夫とは江戸時代の遊郭島原で名声を得た太夫への称号)「この本の中にも、この人形は生きているようで、深夜にこれを見ると鳥肌が立つほどぞっとすると記述があります。」と藤原さん。江戸時代の人も、現代の私も同じような目で見ているんだなと思うと、この人形が持つ魅力が永遠に続くもののように思えます。
 お隣に展示されていた「色絵碁盤童子置物」という作品は、かわいらしい子供が碁盤の上に座っている像です。これはただ単におもしろいからこのようなポーズになったのではなく、宮中の儀式に由来するものだそうです。宮中では数え年5歳の吉日に、碁盤の上に宮様が立って鋏で髪を切るという「深曽木の儀」というものがあるのだとか。碁盤は、その国の土地や天下といったものを象徴しているのではと推測されるそう。
 
 「中国 仙人と貴人」コーナーへ足をすすめると、私達が普段の生活でもよく見かける七福神などの姿がありました。藤原さんの解説によると、肥前古陶磁は、中国の製品を真似してつくったものが多いことから、自然と中国の人々の姿を描いた文様も多いのだそうです。その中でも仙人や貴人といった人々の不思議なお話やありがたいお話をモチーフとしたものが多いのが特徴とのことです。
七福神の一人で、おなじみの「寿老人(または鶴仙人)」は、長寿を授ける仙人で、鶴に乗って飛翔し八人の仙人(八仙人)が出迎えて祝うというお話があるそうです。このお話を表した文様が「八仙迎寿(はっせんげいじゅ)」と呼ばれるとのこと。展示作品のひとつ「染付鶴仙人青海波文皿」もまさに「八仙迎寿」を描いたものでした。皿の中央には鶴に乗った寿老人。そしてその周囲に丸い白窓があります。その中には二人づつ人が描かれていますが(合計8人になります)、これが寿老人を出迎える八仙人を表しています。ひとつの器面の中に、デザイン的にも美しくそしてお話の意味を伝えられるように工夫された意匠は、陶磁器というカテゴリーを越えたひとつの情報伝達メディアのようです。
「こちらの作品の文様は、何のお話かご存知ですか?」と藤原さんに案内された先には、氷裂文の上に子供が描かれ、割れた氷の間から魚が顔を出しているという意匠の「染付人物氷裂魚文輪花皿」。これは中国に伝わる親孝行話「二十四孝」のひとつで「王祥」という子供の話だそうです。王祥は継母につらくあたられながらもよく孝行し、継母が寒い時期に「魚を食べたい」というと、自ら氷のはった川へ出かけます。そこで、魚がいないことから氷の上に裸になって寝たところ、氷が解けて魚が踊り出、継母に魚を食べさせたと言うあらすじなのだとか。この作品の文様はまさに王祥が魚を捕まえる場面。

 中国人を描いたものは、仙人などのお話を伝えたり歴史上の人物の功績を表現するものが多いのに対して、日本人を描いたものはどちらかというと「グラビア」や「ブロマイド」的なものが多いそうです。「日本 力士と美人」コーナーでは、それを象徴するような作品が並んでいました。相撲力士の姿を描いた「染付窓絵力士牡丹唐草文皿」はまさにそういった作品です。
これは江戸寛政年間(1781-1801)に大活躍した人気力士「小野川喜三郎(おのがわきさぶろう)」の姿を描いているそうです。「牡丹唐草の文様の間に、軍配も描かれています。そして絵巻のようなものもありますが、そこに『小野川』の文字がありますね。」と藤原さん。参考として勝川春英画の小野川喜三郎の絵もありましたが、大銀杏や輪郭、ちょっと垂れ目の具合が染付のものとそっくりです。今で言うファン向けのノベルティグッズだったのでしょうか。
 また肥前古陶磁では輸出用を中心に美人画もよく描かれていたのだそうです。これは美しく華麗な衣装の婦人像が異国情緒を醸しだすことで、海外受けが良かったのではと推測。婦人の着物の着付けや周囲に配された少女像などから遊女がモデルであることがわかるそうです。美しい文様として見るだけではなく、その当時の風俗もわかるのですね。

 江戸時代の古陶磁とはいえ西洋人を描いた作品も数多くあるそうです。「西洋 オランダ人と王様」コーナーでは、海外からの注文を受けて製作されたオランダ風景・洋装の人々の姿が描かれたお皿などがありました。これらは輸出だけではなく、物珍しさから国内にも広く出回っていたそうです。藤原さんによると、どの作品も洋装の人物の「靴」が大きく強調されて描かれていることから、当時の人には「靴」が珍しく興味あるものだったと推測されるそうです。
 このコーナーに「色絵ウィレム4世像瓶」という、少し絵付けの雰囲気が違う作品がありました。ウィレム4世とは、オランダ王室の祖先にあたる人で、この作品は西洋のテンペラ画に似た細やかで写実的な絵が描かれています。これは肥前で瓶をつくり、輸出された先のオランダで絵付けが施されたものだそうです。こうした権力者が描かれた工芸品は、その支持者たちが服従の意味もこめて所持していたものだそうです。

 描かれた文様の背景にあるものを読みときながら見ていくと、当時の人たちの願いや思い、風俗などがいきいきと伝わってくるようでした。美術品を見る際に、見た目の美しさを楽しむだけではなく、そこから読み取れるメッセージを知ることで、鑑賞の世界が広がるのだなと教えられた展覧会でした。みなさんも、気になる文様や意匠があればちょっと調べてみてはいかがですか?


■取材雑記
 ちょうどお正月飾りで目にしていた七福神。私たちの身の回りに自然に溶け込んでいるのに、意外とその意味やお話を知らないものです。年中行事や慣習などにもそういったことがあるのではないでしょうか。改めてその意味や目的を知ることで、感謝の気持ちや希望を持つことの大事さに気付くのかもしれません。


●佐賀県立九州陶磁文化館

【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日・12月28日〜1月1日