崇高な美の世界 染付鍋島名品展
<会期:平成14年3月14日〜6月2日> |
平成14年3月19日 |
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有田の今右衛門窯に併設されている、今右衛門古陶磁美術館にて春季特別企画展が始まりました。今右衛門古陶磁美術館は、鍋島・古伊万里の優品や11代・12代・13代今右衛門の作品を公開している美術館です。今年の春季特別企画展のテーマは「染付鍋島名品」ということですが、鍋島の染付だけを集めた作品展は全国的にも珍しいとのことです。「鍋島」とは、佐賀鍋島藩が直轄していた窯(藩窯)でつくられていた磁器のことで、主に朝廷や将軍家などへの献上品、また鍋島藩主の日用品としてつくっていました。今回は当館の学芸員もなさっていらっしゃる、14代今泉今右衛門さんにお話を伺いながら作品を見ていきました。
染付鍋島名品展は美術館の2階にて開催されていました。展示室には56点の名品が、17世紀後半から18世紀後半までの年代順に展示されています。染付鍋島とともに、青磁鍋島、瑠璃鍋島も数点紹介されており、今回初公開という作品も含まれています。「デザイン性の高い鍋島の作品で、どのように染付のぼかしや濃淡、また墨はじきの技法が取り入れられているのか注目してみてください。またこれらの表現によって生まれる古伊万里の染付とはまた一味違う、品格の高い鍋島の世界がみどころです。」と今右衛門さん。ぼかしや濃淡、墨はじきといった技法はどの年代にも取り入れてあるとのことです。
まず注目した作品は「染付瑞鳥文皿(17世紀後半)」という初期の鍋島と考えられる作品です。皿の下方に波、上方に鳥が描かれていますが、今右衛門さんのお話によると、鍋島では草花文を取り扱うことが多く、動物や鳥といった文様はあまり残っていないのだそうです。波の部分を見ると、文様が墨はじきによって描かれています。また皿の裏側にも同じ部分に文様が描いてあります。通常鍋島では、表と裏面では関係のない文様を描くことがほとんどとのことで、この作品のように両面とも同じ文様があるのは大変珍しいとのことです。波の部分の染付は淡く透明感のある色で、鳥もやわらかい線で描かれていますが、構図のせいでしょうか、不思議な緊張感を感じさせます。
文様の斬新なデザインが特徴的な鍋島ですが、器形でもおもしろい作品がありました。「染付三壺文変形皿(17世紀後半)」という作品は、五穀豊穣を祈る吉祥文である三つの壺が描かれていますが、器形も三つの壺が重なったように象られています。この真ん中の壺の文様は墨はじきで細かく表現されています。
染付と青磁を組み合わせた作品もありました。「青磁染付梅花文変形皿(17世紀後半)」は梅文様以外の部分に青磁が掛け分けで施されています。今右衛門さんに「青磁というとどんな作品を思い浮かべますか?」と尋ねられ、頭に浮かんだのは器全体が青磁のものでした。「そうですね、普通青磁というとそういった全体に施された物が一般的ですが、この作品では掛け分けで使っています。古伊万里にもこういった作品はありますが、鍋島においては青磁を背景としてとらえているところが、ポイントのひとつです。」と今右衛門さん。青磁の面積が広いわりには主張し過ぎず、おまけに梅の木をしっとりと包む空気のように感じるなと思っていましたが、「青磁が背景」という言葉で合点がいきました。
「これはおもしろいですよ」と今右衛門さんが紹介された「染付唐花文変形皿」は文様の緻密さだけではなく、鍋島のデザイン性の豊かさにも目を見張る作品でした。五方に区分けした形の中に文様があります。よく見ると、表面と裏面に描かれた文様は交互になるように施されています。
「染付桃文桃型皿」は見込みに2つの桃、外側にふたつの桃が描かれていますが、よく見ると器の形も桃になっています。作品を前にして「桃はいくつあるか?となぞなぞを出したくなりますね。」と思わず今右衛門さんと笑顔になりました。
初公開「染付灘越の蝶文皿(18世紀後半)」という作品もありました。裏文様や高台書、形状から判断すると鍋島後期の作品だそうですが、格調高く力強い仕上がりが最盛期に劣らぬ作品なのだそうです。波の部分は染付の濃淡で表現され、背景は薄瑠璃によって描かれています。染付のブルー一色なのですが、奥行きや空間までも感じさせる作品です。古伊万里に見られる染付は、素朴で親しみやすい印象ですが、鍋島の染付は落ち着いた透明感を感じさせます。
この染付というブルー一色で表現された鍋島を見て、ひとつ鍋島の魅力を発見しました。それは「線」です。絵付けとして描かれた輪郭線は、非常に緻密で緊張感のある部分とゆったりとした雰囲気をかもし出す部分が見事に融合しています。また墨はじきによってつくりだされた線は、主張せず背景や文様に溶け込んだ表現となっていました。これらの線によって格調高いデザインが支えられているのだなと実感しました。色鍋島とはまた違った魅力を発見できるこの展覧会で、あなたも染付のもうひとつの世界を楽しんでみませんか。
■取材雑記
今回の染付鍋島名品展開催中、今右衛門古陶磁美術館では1階が常設として古陶磁の名品、2階が染付鍋島名品展、3階が古陶磁や10代から13代の歴代今右衛門の作品が陳列されています。そして13代今右衛門氏の作品点数を以前より多く展示されているとのことで、人間国宝指定を受けられる以前の作品から年代をおった構成で10点ほどが展示されています。
●財団法人今右衛門古陶磁美術館
【所在地】西松浦郡有田町赤絵町2-1-11
【休館日】毎週月曜日・休日の場合はその翌日(4月29日は開館)・年末年始12月30日〜1月
【駐車場】有
【電 話】0955-42-5550
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