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■寄贈記念柴田コレクション展パートVII
 その2

<会期:平成13年10月19日〜12月16日>
平成13年10月19日

熱心に鑑賞する人 今回は引き続き佐賀県立九州陶磁文化館による「寄贈記念柴田コレクション展パートVII」の模様をお伝えします。当館学芸課資料係長家田さんによる展示作品説明会に参加し、時代別に分けられたコーナーを順にご紹介しています。

 今回は「4.海外輸出時代の幕開け(1650〜1670年代)」からとなります。この頃になると、肥前磁器はベトナムにも輸出が始まり、またオランダの東インド会社によって中近東やヨーロッパに向けての輸出も盛んになってくるそうです。これにより、東南アジアやヨーロッパ向けの注文製品が見られるようになるそうです。心なしかこのコーナーに展示されていた作品は、どれも明快でくっきりした右が有田産、左が中国産文様が多いような気がしました。そしてこの頃は、まだ中国磁器の写しなどを生産していたとのことで、同じような文様・器形の中国磁器と有田磁器を比較できるように2つ並べての展示もありました。二つともそっくりで、どちらかというと中国・景徳鎮窯の物が染付の色が濃く、深い透明感のある肌のようです。
染付線文小壺 輸出品の製品ではちょっと変わった高さ10cm程の小型の壺「染付線文小壺(アルバレロ)(1640〜1640年代)」という作品が目に止まりました。壺にしては小さく、口が広すぎて液体をいれるにはちょっと不便そうです。家田さんのお話によると、このアルバレロという小壺はヨーロッパなどで薬壺として使われていたのだそうです。紙や布で覆い紐でしばって蓋代わりにしていたとのことで、「なるほど口が広いのは液体ではなく、塗り薬などを入れていたのだな。」と納得できました。

洗練された意匠 「5.技術と美の完成(1660〜1670年代)」のコーナーへ入ると小型の作品が多いものの、洗練された意匠の器が多い印象を持ちました。この時代になると、大量生産品も作る一方で、高級品に関しても一定の水準の技術が確立されたのだそうです。意匠に関してもこれまでの中国・景徳鎮窯の写しから、繊細なタッチ、日本的な意匠が増えてくるのだそうです。中には「鍋島では?」と思うような文様デザインもあります。展示を見ていくうちに、この展覧会のポスター等にも使用されている作品もありました。染付牡丹蝶文蝶形皿「染付牡丹蝶文蝶形皿(1660〜1680年代)」という糸切り成形による皿です。大きさは幅が15cm程で、写真で見たイメージよりも大きく感じられます。染付によるグラデーションがとても美しく、滑らかな器形が上品さを醸し出しています。よく見ると描かれた蝶の顔も可愛らしく、ほのぼのとした温かい気持ちになる作品です。この他にも植物や貝などを象った変形皿も多く、特に女性の方が熱心にご覧になっていました。
インドネシア向けの合子 「こちらの作品を見てください。合子(ごうす)という蓋物ですが、これも貴重な作品ですよ。」との家田さんの言葉に、たくさんの閲覧者の方も展示ケースの前に集まります。合子はインドネシア向けに17世紀後半に作られていたのだそうですが、1684年以降は東南アジアへの輸出が頭打ちになることから生産がなくなってしまったのだそうです。展示された作品のようにきれいに残っている物は少ないのだそうです。

いかにも日本的な器 最後のコーナーは柿右衛門様式の色鮮やかな作品や、いかにも日本的というような文様の作品が並んでいました。ここは「6.中国磁器からの脱皮と和様の意匠の盛行(1670〜1700年代)」となっており、家田さんのお話によると、17世紀の後半は和様化した文様の国内向け製品が増加するのだそうです。文様も器いっぱいに描くのではなく、余白を生かした構図のものが多く見受けられます。これらの技術的に完成された作品を「延宝様式」(延宝期1673〜1681年)といい、色絵磁器の場合は特に「柿右衛門様式」というのだそうです。更に次の時代には文様を画一化し連続して表すような「元禄様式」(元禄期1688〜1704年)に移行していくとのことでした。
 染付瓢箪人物太鼓文火入「こちらの作品も和太鼓を表現するなど、日本的な作風ですね。」と家田さんがご紹介された作品「染付瓢箪人物太鼓文火入(1680〜1700年代)」に目を運びました。18世紀前半頃の太鼓形の火入れや香炉は上流階層向けに作られたと考えられているそうです。ところがよく見ても太鼓の絵が見当たらず、説明会の後に家田さんに「どこが太鼓なのですか?」とお尋ねしました。「ほら少し離れて見てください。器の上下に鋲がありますよね…。」との家田さんの言葉で、やっとわかりました。器全体を太鼓に見立てていたのです。細かいところばかりに気を取られて鑑賞していたので、気付きませんでした。思い込みだけでなく、色々な視点で鑑賞しないといけないなあと少し反省しました。
染付山水人物文菊花形鉢 またヨーロッパの風景を描いた珍しい器もありました。「染付山水人物文菊花形鉢(1680〜1700年代)」という作品で見込みにはヨーロッパの風景、器の外側には東洋風の人物文が描かれています。おそらくヨーロッパからの注文品だろうとのことです。色絵磁器の作品も興味深く、柿右衛門様式の上絵の明るい青色と染付の深い青色を比較してみたりしました。

 とにかく作品数が多く、また時代別に体系的な展示がなされているので、技術の変遷などを確認しながら鑑賞でき、見終わった後は満足感でいっぱいでした。毎回この展覧会を楽しみにされている方も多いようで、お年寄りの方で細かい文様を見るためにルーペ持参で鑑賞されている方もいらっしゃいました。柴田ご夫妻の丹念な収集に敬服すると同時に、江戸時代の職人たちの作陶に対する心意気を感じられるこの展覧会、ぜひみなさんも足をお運びください。

■取材雑記
柴田コレクション展パート7をご覧になったら、「私の選ぶナンバーワン」に挑戦しませんか?会場に備え付けてある投票用紙に展示作品の中から一番好きな作品を選んで投票しますと、投票された中から抽選で各5名様に九州陶磁文化館グッズがプレゼントされるそうです。

●佐賀県立九州陶磁文化館
【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】
【休館日】柴田コレクション展会期中は無休です(通常月曜休館)