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■佐賀県立九州陶磁文化館所蔵品による柴田コレクション名品展
<会期:平成13年7月14日〜8月15日>
平成13年7月18日

 ここ最近大雨が続いており、この日は久しぶりにからりと晴れ、青々とした田園を横目に唐津市近代図書館へ足を運びました。今回は佐賀県立九州陶磁文化館所蔵品で九州陶磁文化館で毎年開催されている「柴田コレクション展」に出展されたものから188点の作品が展示されていました。「柴田コレクション」とは、東京在住の柴田ご夫妻によって九州陶磁文化館に寄贈された江戸期の有田焼の数々です。唐津市近代図書館学芸係長の中島さんのご説明を聞きながら、鑑賞させていただきました。

会場photo まずは見所を中島さんい伺いました。「今回は有田焼の流れをわかりやすく伝えるため、年代を追って作品をご紹介しています。この展覧会を見ていただくことで、有田焼の草創期からの歴史を探訪していただけると思います。またかわいらしい作風で女性に人気の高い香合や香炉などの茶道具や、最近若い方に人気のミニ皿を集めていますので、幅広く楽しんでいただけるような構成にしています。」と中島さん。
ところで、「伊万里焼・古伊万里・有田焼」などの名称が出てきますが、鑑賞をする前に其々の定義を中島さんから教えていただきました。「有田で生産されていた焼き物は伊万里港を通って各地へ広がって行きました。そこで、伊万里焼と呼ばれるようになったわけです。また古伊万里と呼ばれるものは、私達の間では1700年代にヨーロッパへの輸出品として生産されていた物を差しています。有田焼という名称は『生産地の名前をつけるのが妥当だろう』ということで、明治時代になってからの名称だそうです。」

染付花束文輪花皿 展示は年代を追って「初期伊万里、古九谷様式、初期色絵、柿右衛門様式、古伊万里様式、幕末期」に区分されていました。「まだ技術的に未熟な初期伊万里の特徴があるのは、この作品ですね。」と中島さんが示されたのは「染付花束文輪花皿(1630〜1640年代)」という作品です。これは直径が19cm程で、見込みの中心部に花束が描かれています。また、口縁部と見込み部の間にへらで削った飾りがあります。白磁の素地が青味がかっており、呉須の色も青というより黒っぽい感じがしますが、中島さんによると「これがまだ技術が確立していない初期伊万里の特徴」とのことでした。

色竹鳥文輪花皿 有田磁器の代表的なものといえば濁し手と呼ばれる乳白色の素地に、赤絵を施した「柿右衛門様式」を思い出しますが、この「柿右衛門様式」の確立につながる作品もありました。「色竹鳥文輪花皿(1640〜1650年代)」という作品です。白磁の上に青や緑を中心とした絵具で絵付けが施され、全体の印象としてはがっちりして力強さを感じます。「『柿右衛門様式』に見られる濁し手はまだ登場していない時なので、素地が若干青味がかっていますね。また、赤い色の絵具もあまり使用されていません。しかし、見込みに非対称形の文様を施すなど『柿右衛門様式』の誕生が迫っていることを感じますね。」という中島さんの説明で、陶工達が悪戦苦闘しながら技法を生み出していた様子が思い浮かびます。
色絵甕割花唐草文八角皿この後「柿右衛門様式」の作品「色絵甕割花唐草文八角皿(1670〜1690年代)」を見ました。これまでの年代の作品と比べ、明らかに素地の色が違います。乳白色の美しい素地に、多彩な色で絵付けが施されています。「この絵付けは、甕に落ちた子供を助けるという中国の故事に由来しているものなんですよ。」との中島さんのお話を聞いて、じっくりと絵付け部分を見てみました。甕には小さな子供が落ちており、甕の右側の赤い服の子供が手を伸ばして助けています。甕の左側の青い服の子供は石を投げつけて甕を割っています。甕の割れ目からは水がこぼれでた様子がいきいきと描かれていました。左右非対称の絵付けで白い余白を生かした、まるで日本画の世界のようです。

 1700年代に入ると、有田地区の磁器はヨーロッパへと輸出され、西洋人の趣味にあった絢爛豪華な作品や大型の作品、いわゆる古伊万里が見受けられます。展示品の古伊万里も豪華な物ばかりでした。中には漆に蒔絵を施したものを、アクセントにした磁器もありました。
染付青磁捻割富士波文大皿幕末期になると、輸出も途絶え有田磁器は国内向けの生産が中心になってくるそうです。「幕末は輸出が途絶えたことで、国内で大量に売ることが必要となってきた時代です。そこで、安く大量生産できる技術を工夫したり、国内向けの斬新で新しい文様なども考案されてきます。」中島さんの説明を聞きながら、あっと驚くような斬新なデザインの皿が目に飛び込んできました。「染付青磁捻割富士波文大皿(1840〜1860年代)」という直径45cm程の大きな皿です。皿の中心から外に向かって12分割されており、青磁部分と染付部分と交互に表現されています。染付部分には富士山とデザイン化された波が描かれており、浮世絵のような娯楽性を感じさせます。また青磁の部分はまるで風車のような形にデザインされています。見学されていた方もこの作品の前では必ずといっていいほど、足を止められていました。

香合 この他にもかわいらしいミニ皿や、細かい装飾を施した香合などがあり見所満載です。「時代を追いながらわかりやすく、楽しんでいただけると思いますので、ぜひ子供さんにも見ていただきたいですね。」と中島さん。会場には中島さんの丁寧な説明による案内ビデオや、技法や様式を解説したプリントなどもあり、やきもの初心者の方にもおすすめです。夏休みの学習として見学されてみてはいかがでしょうか?

■取材雑記
 中島さんによると、最近は若い人にも骨董が静かなブームだとか。テレビ番組などで興味を持っても「いきなり骨董店に行くのは、ちょっと気がひける」という人も多いでしょう。まずはこういった展覧会で、先人たちの仕事ぶりがうかがえる作品に出会ってみるものいいのではないでしょうか。

●唐津市近代図書館 美術ホール
【所在地】唐津市新興町(JR唐津駅前)
【電 話】0955-72-3467
【駐車場】
【休館日】月曜日