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やきものにみる文様VOL.32 赤壁賦(せきへきふ)




 蘇軾(そしょく)(1036-1101)は中国、北宋(ほくそう)の政治家で文学者であった。蘇東坡(そとうば・そとんぽう)という号でも親しまれている。ちなみに豚の煮込み料理であるトンポーロウ(東坡肉)は彼が黄州へ左遷させられた際に豚肉料理について詠じた詩からつけられたという。蘇軾は中国を代表する文人官僚で、その生涯は政争の渦中にあった。明朗闊達で苦難に屈しない公明な人柄が人々に敬慕され、その詩文は中国のみならず日本でもたいへん愛されている。蘇軾は頭脳明晰で、若くして科挙に合格し、官僚として出世をとげたが、詩文によって政治を批判したとして、獄にいれられ死罪となりかけた。幸い赦(ゆる)され、流罪となった際に武漢市の西にある赤鼻山(湖北省黄岡県の長江沿岸)で詠んだ詩が彼の代表作「赤壁(せきへき)の賦(ふ)」である。(賦とは韻をふんだ美文のこと)その後、皇帝の側近に起用されたが、再び失脚し、果ては海南島に流された。帰還が赦されてまもない頃亡くなるという波乱に富んだ生涯であった。

 この蘇軾が詠んだ「赤壁(せきへき)の賦(ふ)」は、「前赤壁の賦」と「後(こう)赤壁の賦」の二つがあり、前編は旧暦七月十六日の夜遊を叙情豊かにうたい、自然の悠久さと人間の命の短さを対比させ、自然の美しさを楽しむ喜びを表現し、後編はおよそ三ヶ月後の冬、再訪したときの十月十五夜の遊びを記して、自然の変化と人間の存在について歌ったものである。

 肥前磁器にはこの「赤壁賦」をあらわした舟遊びの文様が描かれ、これは中国磁器の影響と考えられる。とりわけ19世紀前半頃「前赤壁賦」の詩句とともに舟遊びがあらわされた製品がみられる。

(藤原友子)
 
佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No.39号より(平成15年発行)

■写真…染付赤壁賦文小鉢
C佐賀県立九州陶磁文化館館
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