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やきものの技法VOL.23 ひび焼 (ひびやき)


 釉薬と素地の収縮の差を利用して釉薬に意図的にひびを生じさせ、文様としての装飾性を持たせたやきもの。青磁や陶胎染付の作品に特徴的なひび焼がある。陶胎染付は、陶器質の素地に直接染付を行う場合と、素地の上に白化粧を行う場合がひびが生じやすく、ひびの装飾的な効果を出しやすい。ひび焼は伝世するうちにひびの中にしみが入り、黒い文様となって器の全面を飾る。

 素地と釉薬が合わずに、結果的に釉薬にひびが入ったのはひび焼とは呼べない。伝世品の中では最初から意図的にひび焼を作ったものと、結果的に釉薬にひびが入ったものが混同されている。たとえば肥前の17世紀前半の窯として知られる百間窯(佐賀県杵島郡山内町)の製品は、素地がせっ器に近いため釉薬に貫入が入りやすい。しかしこれは意図してひびを生じさせたものでない。一方17世紀後半の長吉谷窯(有田町)の製品は、ほとんどが上質の磁器の素地であるが、陶胎に化粧土をした陶胎染付の製品が稀にある。磁器生産専門の窯であえて陶器を焼くのは特別の需要に応じた製品と考えられる。磁器の冷たい雰囲気とは異なる、柔らかい印象を与える陶胎染付によるひび焼は、茶碗、水指、香炉など茶陶が多い。「寛文仁年(1662)」「大樽山(有田町)」の銘が入ったひび焼の染付如意雲文香炉があり、写真の水指も同時代の有田の作品と考えられる。かつては平戸藩の中野焼と見なされていたものであるが、中野窯の出土陶片には化粧土のものはなく、認識を改める必要がある。


(鈴田由紀夫)
佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No30号より(平成7年発行)

■写真…染付如意雲文水指
C佐賀県立九州陶磁文化館所蔵
■編集・著作…佐賀県立九州陶磁文化館
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