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VOL.1 印版(1)―コンニャク版― | |
陶磁器の絵付けには筆で直接行うものと、版や型紙を用いて間接的に行う絵付け(印版)がある。後者の印版による絵付け法は複雑な文様を大量に、低価格に生産できるようにしたものである。この量産のために生みだされた技法にスポットをあて、今回からシリーズでとりあげてみたい。 最初に紹介するものは、いわゆるコンニャク版である。この技法がいつごろからどのようにして行われたものか、今のところ正確には判っていない。ただ古窯跡においては、長崎県長与町長与窯や波佐見町百貫西窯・長田山窯・皿山本登窯、さらに佐賀県有田町無患子谷(むくろたに)窯、山内町筒江窯や伊万里市市の瀬窯などで確認されている。器種は碗類が多く、外側に団鶴・菊・桐などの文様が施されている。ほかには猪口(ちょこ)※1の外側に蝶文とか、皿の見込みに五弁花文※2などを押捺した例がある。こうしたコンニャク版は、京都大学構内遺跡や東京都動坂遺跡などから出土しており、流動範囲は広く量的にも多く生産されたと考えられる。 その生産年代は江戸中期から江戸後期(18世紀〜19世紀)と思われる。また肥前地区以外の産地において、コンニャク版による製品を焼成した例が見当たらないことも注目される。 写真の染付中皿は当館の新資料で、葉状文の部分がコンニャク版である。周辺の丸い菊文は手描きによってダミの濃淡をつけてあるが、コンニャク版の方はずっと淡くみえる。コンニャク版の材質がもし名前のとおりコンニャクを利用したものであれば、水分を含んでいるために呉須が薄められ、またやわらかいので押しつけたときに、本来の文様以外の部分にまで呉須がはみだし、あたかも淡いダミを施したかのような効果が生まれたのではあるまいか。技法的には簡単で能率的であると思われるコンニャク版も、江戸時代の終わりには姿を消した。 (鈴田由紀夫)
※1 猪口についてはこちら→ ※2 五弁花文:花を意匠化した文様。皿や小鉢などの見込みによく見受けられる。 |
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