Vol.34 |
|
藍色のベンチャー(上・下)
(あいいろのべんちゃー)
■発行所
新潮社
■著者
幸田真音(こうだまいん)
■定価
1600円(上下とも同価格)
■ジャンル
歴史小説 |
幕末に最先端産業を起業する!商いの醍醐味、職人の誇り、官と民の闘い、そして夫婦の情愛を丹念に描いた、著者初の経済歴史小説。(カバー広告より)
|
湖東焼―激動の幕末期に、歴史に翻弄されて、短くも数奇な運命をたどった幻の窯。
湖東焼の歴史は短い期間に過ぎませんでした。 文政12年(1829)に彦根城下の絹屋半兵衛によって創始されてから、のちに彦根藩直営の藩窯として全盛期を迎え、明治になって廃藩後に再び民営となり、
明治28年(1895)に窯が閉じられるまでの67年間です。
小説は絹屋の半兵衛が新たに焼き物で貿易を行なうことを決心し窯を開くところから、彦根藩主井伊直弼が桜田門外の変で命を落すところまで、湖東焼の短い歴史を余すところなく描いています。
湖東焼についての多くの技術的な説明の興味深さは言うまでもなく、幕末の黒船来襲以来の激変する江戸や京都の世情についても、その渦中にいた直弼の心情をきめ細やかに描き、とくに下巻の後半部分は緊張感が途切れることがありません。
藍色のベンチャーという題名が示すとおり、経済歴史小説といえるこの小説で、作者が描きたかったことのひとつは、民窯で出発した湖東焼が、藩窯として召し取られ、そのあげくに技術力の低下を招き、ついには廃窯となっていく。時代に翻弄されたとはいえ、官と民とどちらが主導権を持った方がよりよい発展を遂げるのか?
作者のあとがきに「幕末という激動の時代は調べれば調べるほど現代に似ている」とありますが、まさに歴史を学ぶことで現代を考えるきっかけを与えてくれる一冊です。
|