| Vol.27 | 
                
                
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                  かまぐれ 
                  (かまぐれ) 
                  ■発行所 
                  日本優良図書出版会 
                  ■著者 
                  濱野成秋(はまのせいしゅう)   
                  ■定価 
                  1500円 
                  ■ジャンル 
                  現代小説 | 
                
                
                  
                   
                  「かまぐれ」とは焼き物の世界の渡り職人のこと。人生の求道者。醍醐の陶芸の里にいて夫との冷めた愛に苦しみつつヒロインは昔の恋人に邂逅する。成秋文学らしい内面に潜む情念とゆらめく心のよく表出された作品。作者苦悩の果ての書下ろしである。(カバー広告より) 
                   
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                  「かまぐれ」というのは、焼き物の世界を渡り歩く職人のことを言い、この小説は「かまぐれ」となり生きることに、自分の進むべき道を求めたやきもの師たちの、それぞれの群像を描いた作品です。 
                   
                   舞台は京都、醍醐のふもとにある炭谷。楽筌窯二代目である岳秋と、その妻である冬子の関係は、息子の事故死をきっかけにして深い溝ができていました。そのような折、冬子のもとに勝方という大学時代の恋人から、一本の電話が入ります。彼女の身体に一瞬にして勝方への熱情が立ち上り、彼女の強い勧めを待っていたかのように、勝方は彼女の窯で働く「かまぐれ」の身となります。しかし、そのことを面白くなく思う人物がいました。窯の主である夫の岳秋です。 
                   
                   この小説はどの登場人物も、その個性が非常によく描かれていて、人物がいきいきと感じられます。夫である岳秋の冬子に抱く卑屈さや執念深さ。ヨッちゃんの明るさと狡猾さ。とくに秀逸なのは岳秋の描き方で、小説の最後、岳秋の心情を知ることになると読む者の胸はじんと打たれてしまいます。 
                   
                   小説の最後、窯に残りろくろを回し続ける自分の手をまじまじと見つめながら、自分もまた「かまぐれ」の一人だという冬子の言葉には、「人はみな、"かまぐれ"」という作者の思いまでもが伝わってくるようです。 
                   
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