Vol.16 |
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不況大突破 瀬戸の民吉
(ふきょうだいとっぱ せとのたみきち)
■発行所
叢文社
■著者
加藤徳夫(かとうのりお)
■定価
1600円
■ジャンル
歴史人物列伝 |
江戸中期、瀬戸の陶器は江戸大阪京都の客筋に見放され存亡の危機に―。売れる商品とはそもそもなにか?瀬戸の陶器関係者たちは九州諸藩が門外不出、虎の子として秘蔵する磁器製造の秘法を移入する以外に活路はないと悟る。だが秘密の技法を探りに来たと知れたら生きては帰れない。大任を背負った若き民吉は死を覚悟して海を渡る―。(カバー広告より)
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<陶器>から<磁器>へ。江戸時代末期、「せともの」で知られる陶都・瀬戸は肥前・有田を代表とする磁器に押され、窯業界は不況に喘いでいました。
この本は、陶器から磁器へと産業の転換を図るために尽力した加藤民吉という人物と、彼を陰で支えた多くの協力者たちを紹介した本です。
江戸の末期とはいえ、交通網はほとんど発達しておらず、移動手段も徒歩もしくは船に限られた時代にあって、磁器製法取得のために遠く九州まで旅立つことを決心した民吉の胸中に去来するものとは一体何だったのでしょうか。瀬戸を救うために彼が九州で貪欲に学んできたことが、その後の瀬戸を名実ともに陶都として発展させることにつながっていきます。
加藤民吉は後年、瀬戸では窯神とまでいわれ英雄として崇められた人物ですが、歌舞伎に「佐佐の悪魔、瀬戸の窯神」という副題のついた作品があるように、とくに磁器製法の取得のために訪れた西九州地方においては、彼の評価は必ずしも一致したものではありませんでした。
作者の加藤徳夫氏は、この本を執筆する動機として二つのことをあげています。一つは、技術革新により瀬戸を救った加藤民吉の足跡を尋ねることで、彼の功績を広く紹介したいという思い。二つ目は、彼とその協力者の活躍を通して、平成不況に喘ぐ日本の産業界に活路を見出したいという思いです。
とくに、後者については、経営コンサルタントでもある氏が本書執筆を通して感じたことを「民吉に学ぶ」として最後にまとめてあります。
地域に存在した歴史上の人物を、伝記として分かりやすく紹介しようとした作者の思いに感心する一冊です。 |