Vol.15 |
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月の炎
―女流陶芸の先駆・月谷初子
(つきのほのお)
■発行所
風媒社
■著者
桑原恭子(くわはらきょうこ)
■定価
1600円
■ジャンル
歴史人物列伝
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日本彫刻界への鮮烈なデビュー、十歳年下の青年との恋愛とさすらい、そして陶芸家への変身、新天地名古屋での成功と挫折…。苛酷な運命に翻弄されながらも、つねに情熱的に自らの生を生き抜いた!(カバー広告より)
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新鋭の女流彫刻家として明治の美術彫刻界にすい星のように登場した月谷初子の、波乱に満ちた生涯を描いた作品です。
十二歳の若さで洋風彫刻の小倉惣次郎に入門した初子は、二十七歳のときに三年連続で挑戦してきた彫工会展でみごと銅牌に輝きます。女流彫刻家としての将来を嘱望された初子は、しかしその後、忽然と彫刻界から姿を消します。
彼女の一生は十歳年下の青也との出会いをきっかけにして、予想のつかない方向へと大きく旋廻をはじめます。恵まれた才能と努力によってようやく彫刻家としての地歩を築き始めた矢先であるにもかかわらず、青也とともに過ごすために彫刻界を去ることを決意します。
駆け落ちした二人は各地の窯場を転々とする生活に身をおきます。彫刻家としての初子の技術は、焼き物の世界にあっても稀有の才能を存分に発揮します。しかし、その生活が生涯を通して決して豊かにはならなかったことに、栄光の山が高い人ほど、その逆である谷の部分も深のではということを知る思いがします。
そのような月谷初子の生涯は果たして幸せだったのでしょうか?その問いについては、小説の最後で初子の声を通して作者の思いが語られています。そしてその言葉は、彼女と一緒に生涯を送り、彼女より先にこの世を去っていった青也への問いかけにつながっています。
「でも、青さんはどうだったのだろう。仕合せだったのだろうか。越前の実家にも帰るに帰れない身となって、(中略) 月谷初子の世話をして、これでよかったのだろうか。……」
青也の生涯は果たして幸せだったのかどうか?青也の視点に立って初子の生涯を追ってみることとで、私たちはまた違った感慨を抱くことでしょう。 |