Vol.14 |
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短 夜
(みじかよ)
■発行所
朝日新聞社
■著者
高橋 治(たかはしおさむ)
■定価
1500円
■ジャンル
現代小説
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命ある限り君を見捨てるようなことはしない
男の真実な愛に思い乱れる、古美術商蔦代とその男の辿る運命に、古美術品の真贋をとりまぜて描く(カバー広告より)
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古美術商「故渓」を営む氏家蔦代と彼女が愛した三人の男との出会いと別れの半生を、日本、香港、韓国を舞台に描いた作品です。
物語は蔦代の現在の話から始まり、過去へと遡っていきます。銀行頭取を務める父親の反対を押し切ってまで上京を試みる蔦代。彼女を連れ戻しに駅のホームまで駆けつけた大津。大津へ抱いていた淡い恋心は、その後彼女が結核で入院し、大津が別の女性と結婚するという幕切れで終わります。それから十数年を経た香港で大津との再会を果たしますが、その出会いは彼の死という形で儚くも終ります。
藤堂甲四郎が持ってきたひとつの茶碗から始まった、天草の若手陶芸家須之本甲平との出会いもまた、彼の死をもってすべてが終ります。
タイトルの短夜とは、「短夜(みじかよ)、後朝(きぬぎぬ)、枕方(かた)去る……」からとったもので、枕方去るとは、愛する者のいない夜を、古代、女が枕を片側に寄せて寝た風習を言い、蔦代は、自分はそんな言葉が似合うのだと信じ、十年前に出会った森園との再会と別れを冷静に受け止めようと自分に言い聞かせます。
男勝りに骨董市で威勢のよいところを見せる蔦代の颯爽とした様子は、とても活き活きと描かれていて読むものを存分に楽しませてくれます。また、絶えず脇役として登場する藤堂甲四郎という老陶芸家の個性を通して語られる数々の言葉に、この物語が単なる男と女の恋愛物というジャンルを越えて、私たちに根源的なものを訴えかけてくるものを感じます。
愛した男とのそれぞれの出会いと別れの局面には、必ず贋作にまつわる話が織り交ざりますが、甲四郎の贋作を競り落としたあとに訪れる森園との再会に、蔦代の扉は開かれるのかどうか。物語は爽やかな余韻を残して幕を閉じます。
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