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やきものが登場する物語
Vol.13
イスタンブールの闇
(いすたんぶーるのやみ)
発行所
中公文庫
著者
高樹のぶ子(たかぎのぶこ)
定価
533円
ジャンル
恋愛小説

 世紀末の都で運命的に再会した男と女―。16世紀に消えたイズニク・タイルの謎をめぐって、イスタンブールと津和野、ふたつの都市を背景に描く、激しく、狂おしく、ミステリアスな大人の恋。傑作長編恋愛小説。(カバー広告より)


 物語の舞台はイスタンブール。イズニク・タイルの朱赤に魅せられ、その製法の秘密を求めてやまない沖波残と千野熔子、そして熔子の姪流美。物語は津和野にいる熔子の息子鮎を交え、四人を性愛渦巻く闇への中へと導いていきます。

 朱赤の製法の秘密を手に入れるためには、手段をいとわない波残は、自ら愛した流美を使って政略結婚を指示したり、その叔母にあたる熔子と二十数年ぶりに再会し、再び感情を蘇らせたりする。そして、悪漢を演じる彼の持つ「闇」は津和野の闇と同じように、暗くて深い。かつて祖父の事業の失敗を機に津和野を離れた波残は「もはや清流にはもどれない魚」となってしまっている。

 物語は熔子と波残の関係を軸にして、イスタンブールと津和野、波残と鮎、熔子と流美、すべてが対照的に描かれていきます。
「イスタンブールの闇」が同時に「イスタンブールの光」であるという解説の最後の言葉に頷きながら、それではその「光」の持ち主、あるいは誰にその光りが注ぐのを期待するのか。それは決して熔子ではなく、息子の鮎ではないでしょうか。

 自分が恋心を抱く姪の流美と関係を持ったばかりか、その男が自分の父親であったということを知らされ、イスタンブールと対象的な環境として描かれる津和野に執着し、自らのアイデンティティーを確立しようとする。

 この小説は男と女を巡る恋愛小説としても十分に楽しめるものになっていますが、波残という強烈な個性の男に立ち向かい、数奇な境遇に晒されながらも前向きに未来へと足を進めようとする鮎の姿に、この小説の「光」を見つけることができます。

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