| Vol.12 | 
                
                
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                  珍品堂主人 
                  (ちんぴんどうしゅじん) 
                  ■発行所 
                  中公文庫 
                  ■著者 
                  井伏鱒二(いぶせますじ) 
                  ■定価 
                  476円 
                  ■ジャンル 
                  小説 
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                   風がふかないのに風に吹かれているような後姿には、料亭<途上園>に夢を託した珍品堂主人の思い屈した風情がただよう―。善意と奸計が織りなす人間模様をあざやかに描きわける井伏文学の傑作。(カバー広告より) 
                   
                   
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                   骨董に憑かれた者たちが繰り広げる人間模様を、面白く、巧みに描いた作品です。 
                  話の筋は、珍品堂と呼ばれる骨董狂の中年男が一念発起し、古い屋敷を貰い受け、料亭を経営するのですが、しばらくののちにまんまと追い出され、骨董の世界に再び戻っていくというものです。 
                   
                   珍品堂を追い出す敵役に、蘭々女という今で言うところのキャリアウーマンが出てきます。この女史が登場するあたりから、小説はぐんと加速度的に面白く展開していきます。 
                   蘭々女の狡猾さ、憎々しさは本当によく描けています。また、羽振りをきかせる彼女とは対照的に、次第に肩身の狭くなっていく珍品堂の心理描写も秀逸です。 
                   珍品堂は蘭々女に追い詰められたあげく、ついに「逆ギレ」するときがやって来ますが、ここでのやりとりが抜群に異彩を放っています。 
                   
                  「何とか云ったらどうだ。てめえ、どうして俺に煮えくり返るような思い、させたいんだ。」 
                   珍品堂が殺気だって立ち上がると、 
                  「タンマ。」 
                   と女史は、子供のように云って珍品堂の気を殺ぎました。 
                    
                   この茶目っ気たっぷりの会話はどうでしょうか。作者の精神構造の底知れなさを感じさせる一文です。 
                  それにしても「タンマ」という言葉が戦後すぐに使われていたとは知りませんでした(笑)。 
                   
                  「骨董=女」に見立てることで、両者に翻弄される中年男の哀愁をユーモアたっぷりに描いた、井伏文学の傑作のひとつです。 
                   
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