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やきものが登場する物語
Vol.11
やきもの師
(やきものし)
発行所
集英社文庫
著者
平岩弓枝(ひらいわゆみえ)
定価
533円
ジャンル
小説 ※短編集につき他九編を含む

 やきものに人生を賭け、腕一本で陶芸界に挑戦する姉弟が、罵声と嘲笑の歳月からやがて栄光を浴びるまでの苦闘に満ちた日々を精細にたどる。(カバー広告より)


 「婆の心残りは天下一になった竜助の焼物を見いで死ぬことや……」
 祖母の最期の願いに応えるように、今や陶芸界の寵児となった野上竜助とその姉喜久の野心と姉弟愛を、古信楽の壷にまつわる話を中心に描いた作品です。

 一度は重要文化財の指定を逃した古信楽の壷が、十数年の年月を経て再び脚光を浴びるとき、竜助と喜久の二人には誰にも言えない秘密の過去が去来します。
 二十二、三年前、一目みて惚れた古信楽の壷。これと同じもんが出来るかと聞く姉。その壷と同じものを作ることが、自らの陶芸家としての勝負だと決心した竜助。

 小説の主題は、芸術作品の鑑定とその評価に対する問題提議であり、古いものならなんでもいい、という鑑定家、お役人、学者を敵に回して、竜助は挑戦的にこう言います。
「……古い、新しいが値打ちの分かれ目で、それを鑑定する人の目が、又、節穴や。目の見える人なんぞ一人も居らん。(中略)そいつらの横面を引っぱたいてやるんや。目の玉を裏返しにしたるんや」

 実際にあった「永仁の壷事件」をヒントに書かれたということで、話の展開に興味を抱く作品ではありますが、竜助と喜久の二人はその人間性がとてもよく描かれています。それから、この小説を一段と緊張感のあるものにする人物として、京極老人が設定されていますが、話の中にこのような人物を登場させた作者の構想力にも感心します。

 古信楽の壷が重要文化財に指定される知らせが届いたあとの、竜助の心の動揺と放心。それが何を意味するのか。この小説が投げかけるもう一つ別の主題がそこにあるような気がします。

■関連リンク 「御宿かわせみ・お吉の茶碗」(平岩弓枝)
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