Vol.10 |
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終りなき祝祭
(おわりなきしゅくさい)
■発行所
新潮文庫
■著者
辻井 喬(つじいたかし)
■定価
629円
■ジャンル
小説 |
晩年、艶やかな作品を残した父は人間国宝の陶芸家。「青鞜」に属し、平塚らいてうの恋人と呼ばれた母は婦人解放運動家。強烈な個性と個性の、出会いと結婚。二人の愛は激しく、だから憎しみは深く。父母の愛憎のはざまに生を享けた宿命に、生涯苦悩し続ける息子…。大正から昭和。さらに戦後へと揺れ動く文化情況の、あたかも映し絵のような「業」を生き「業」に死んだ、その家族の肖像。(カバー広告より)
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「やきものが登場する物語」ということで文学作品を紹介していますが、「やきもの」が物語の中でどのような位置を占め、どのように物語られているかということを振り返ってみますと、多くの作品において「やきもの」は「やきもの」それ自体の歴史や造形の美しさ、技術の素晴らしさのみを、私たちに提示するものではなく、「やきもの」を通して、登場人物の芸術観や人間観を私たちに垣間見せてくれるものとなっていることに気づきます。
ではなぜ、「やきもの」がこのように小説を成立させる舞台装置、モチーフとして取り扱われるのかと考えますと、創造過程においては、極めて特殊な、個人的な芸術分野である「やきもの」が、ひとたび創作者の手を離れると、今度は逆に、極めて広く一般的な生活必需品として扱われるという、「やきもの」という芸術の特性にも由来するからではないかと思います。「やきもの」を通して語られる芸術的概念が、そのまま「やきもの」に携わることのない私たちの生き方や考え方にも、直接響いてくるという現象は、他の芸術分野やスポーツを扱った
物語にはない、そういった特殊な側面が強く感じられます。
本書「終りなき祝祭」は、そういった「芸術観」や「人間観」を、物語を通して強く感じさせてくれる、刺激ある作品の一つです。
大正時代から昭和、戦後に至るまでの激動の歴史的背景を舞台に、政治家、文学家、芸術家といった男と女の生活と精神世界を、陶芸家田能村善吉とその妻文の数十年に渡る愛憎劇を中心に描いた作品で、人間国宝にもなった富本憲吉とその妻一枝をモデルとして書かれた小説です。内容については青踏社の平塚らいてうを中心とした、婦人解放運動や文壇にまつわるさまざまなエピソードなど、当時の動静を知る伝記小説としても興味深く読むことができます。
「終りなき祝祭」というタイトルは、人間世界がある限り永遠に続く男女の関係を表しているのであろうと思いますが、「祝祭」というイメージから抱く情景の中に、華やかさばかりでなく、その裏に蠢く人間模様、陰影があることを、この小説は私たちに教えてくれます。
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