Vol.8 |
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夫婦茶碗
(めおとぢゃわん)
■発行所
新潮社
■著者
町田 康(まちだこう)
■定価
1400円
■ジャンル
現代小説 |
芥川賞作家の超傑作!金がなく潤いすらない無為の日々。そんな私に人生の茶柱は立つのか?!その過激な堕落の美学で絶賛を浴びた「夫婦茶碗」(帯広告より)
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職につかず、喰うに困るような夫婦生活をおくるダメ夫。そんな状況下であっても彼は家庭に「うるおい」を求めるべく、あれこれと頭でっかちに思考を駆使し、ユーモラスで奇怪な行動を繰り広げます。内装工でのペンキ塗りや冷蔵庫の鶏卵の並べ方にこだわる偏執狂ぶり、メルヘン作家になるべく、自ら夢想した小熊のゾルバと化し、叡智の石(そんなものはもちろんない)を探しに町を彷徨ってみたりと、彼の徹底した奇人ぶりには読む方も思わず笑ってしまいます。
さて、タイトルの『夫婦茶碗』ですが、小説の最後になって、このコーナーの本来のお目当てである「やきもの」がようやく出てきます。「おおやっと出てきたな」といった感じですが、甲斐性なしのダメ夫が、座卓に着座しうやうやしく夫婦茶碗に茶を注ぎ、家庭円満を願いつつ、茶柱を立てようとする姿は、ほほえましくあり、ユーモラスでもあります。しかもこの夫、文芸に秀でた才能をちらりと見せるところがあり、最後の茶柱のシーンでも、「適度に冷ました薬罐の湯を朱泥の急須に注ぐ。……」とあり、お湯を「適度に冷ます」とか「朱泥の急須」とか、単なる無知蒙昧のダメ夫ではないのがありありと感じられます。このあたりの微細な表現描写は見事です。
ダメ夫に愛想を尽かすでもなく、無理難題な要求にも時には懸命に応えようとする妻の姿に、私たちは彼女への同情心を寄せるのですが、ダメ夫もなかなか憎めない奴で、わざわざ高価な夫婦茶碗を買い、自分たち夫婦を夫婦茶碗に見立てて、明るい未来に願をかけるべく、絶対に茶柱を立ててみせると意気込む彼の姿には、妻への愛情をそういうへんてこりんな形でしか表現できないいじらしさを感じます。
町田康作品の特徴である流れるような文体。そこらじゅうに吐きつけられる言葉。小説の新たなカテゴリを知らしめてくれる才気にあふれた作品です。 |