Vol.5 |
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夢の階段
(ゆめのかいだん)
■発行所
新潮文庫
■著者
池波正太郎(いけなみしょうたろう)
■定価
514円
■ジャンル
歴史小説 ※短編集につき他八編を収む。 |
微禄の若者小森又十郎は、辛夷(こぶし)の花のようだと憧れていた首席家老の娘の再婚相手に指名され、夢見心地。しかし三日後、彼は周囲の猛反対を尻目に縁談を断わり、武士を捨て、陶器職人となる道を選んだのだった…。(カバー広告より)
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『鬼平犯科帳』『剣客商売』で知られる池波正太郎の短編時代小説。
藩の主席家老の娘多津代の再婚話を、身分不相応との理由で断った小森又十郎と、その多津代を嫁にした木内政之助。その後の二人が歩む『夢の階段』を対照的に描くことで、人生にとって生甲斐とは何か、夢とはなにかを考えさせてくれる作品です。
二十年前、又十郎が領国と藩のために夢を語ったとき、政之助は嘲笑するようにこう言う。「身分が上になればなるほど、夢を見るゆとりなどなくなってしまうものさ」
その言葉が案じたように、政之助は多津代を嫁にしたのち藩政を取り仕切るまでの身分になったが、今は家督相続争いに巻き込まれ生死の境にいる。
多津代との縁談を断り、武士という身分を捨て雁牧の窯元で陶工となった又十郎は、「人の世に向って夢を見るより、焼き物に向って夢を見るほうが、はるかに気楽だ」と、自ら思い描いた『夢の階段』を一歩ずつ地道に歩んでいる。
政之助の悲劇的な最期に比べて、「自らの手だけで思うままに『夢』を実現できる焼き物の世界」へと身を投じた又十郎の人生が、果たして平坦で昇りやすいものであったのかどうか、作者池波正太郎が私たちに差し出そうとした命題がそのあたりに隠されているような気がします。 |