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中島宏さんは昨年夏、龍泉など中国の古窯を訪れた。旅の模様は、NHKの特集番組「青を極める」として放送された。湖の水辺や草におおわれた窯跡から陶片を拾い、ルーペで丹念に見る。中島さんの顔は、子供が宝物を見つけた時のように輝いていた。 中島さんによれば、国の文化財に指定されている青磁17点(うち国宝3点)はいずれも龍泉で作られた。青磁の美を追い求めてきた中島さんは、源流を再訪した旅を「先祖の墓参り」と説明する。「名品を生んだ環境、原料がそろっていることがあらためてわかった。松の木の一本、一本にも感動した14年前に比べて、今度は冷静に一歩下がって見ることができた」という。 磁器を焼く窯元に育った中島さんは、実は家業を好きになれなかった。「今でいう3Kの仕事、泥だらけで」と若いころを振り返る。転機になったのは、父親に連れられて始めた窯跡の調査だった。古唐津や染め付けの中に交じる青磁の陶片に、きらりと光るものを感じた。幸田露伴の本の中に見つけた「心を込めることができる仕事」との言葉が後押しした。 「青磁は難しい」と周囲からいわれ、逆に「それなら自分の存在感が出せる」と進む道を決めた。窯跡を歩き、文献をひもとき、手探りで進んできた。「土、釉(ゆう)薬の研究は限りがなく、面白い。うまく焼けたとしても、これがいいと決めつけずに、常に変えてきた」と日々新しいものを追ってきた。 中島さんは、創造する喜びを「これは自分だけのものという快感」と表現する。「常に白紙からスタートする」という姿勢は、作陶の技法にも表れる。中国の青銅器に触発され、彫りを入れ、かき落としを手がける。印象派の絵から、釉薬を重ねて色に深みを出す試みに挑む。 中国の旅では、博物館で多くの名品を手に取ることができた。「先人の仕事に学んだ上で、しばられないようにしたい。だれも見なかった世界、自分だけしか見えない夢を追っていきたい」と暗中模索を続ける。 龍泉では、雨上がりの晴れわたった空をながめ、湖水を走る船上から、えも言われぬ夕方の空に遭遇した。「宇宙を作品に表現したい。空は無限に広がる。連想し、空想し、目に見えないものを」と目指す地平は果てしないようだ。 中島さんは今年6月、東京・銀座の日動画廊で個展を開く。同画廊での陶芸家の個展は30年ぶりといい、50点を出品する。本格的な個展は4年ぶりで、「新しいものを創(つく)り出すのが私の仕事」と年明けから制作に取り組んでいる。さらに新たな青磁の世界の展開が期待できそうだ。 |
■弓野窯 武雄市西川登町弓野 JR武雄駅から車で20分。日出城バス停から徒歩5分。 駐車場6台。 電話0954(28)2068 |
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